Journal Club 雑記

seronegative RA患者長期フォローでのSpA発生率

Is seronegative rheumatoid arthritis true rheumatoid arthritis? A nationwide cohort study.  Rheumatology (Oxford) . 2021 May 14;60(5):2391-2395.

 

【Conclusion】
  • 2000年から2015年の間に診断されたFinlandのseronegative RA患者におけるSpA診断への診断変更15年累積発生率は8.8%
  • 注目すべき事として、男性患者および50歳以前にseronegative RA患者として診断された患者は、年月を重ねるにつれて、SPAの診断へと変わりやすい。ゆえに長期の経過観察が必要である
  • seronegative RAの鑑別診断にSpAを考慮することが重要である

【Introduction】

  • seropositive RA(RF陰性・ACPA陰性のRAの表現型)とseronegative RA
    • 疾患の経過や様々な点で ‘behave’ 挙動 が異なる Clin Exp Rheumatol 2019; 37:37–43.
    • ある研究では遺伝的および環境的な危険因子が異なるため、異なる疾患メカニズムであると考えられている Arthritis Rheum 2009;60: 1597–603.
    • いくつかの研究では、seronegative RAはseropositive RAよりもベースラインでより重篤な臨床症状を示す可能性があることを示唆しており、実際に現在の分類基準を満たすにはseronegative RAの症例では高い疾患活動性である必要がある Ann Rheum Dis 2017;76:341–5.
    • それぞれの治療アウトカムに関する知見は、レビューした研究によって異なる  Ann Rheum Dis 2012;71:1472–7.
    • aetiopathological 病因論的な、臨床的な違いがあるにもかかわらず、RA臨床試験や実際のコホート研究では、患者の3分の1までseronegative患者が含まれている Ann Rheum Dis 2009;68:1666–72.
  • early RAundifferentiated arthritis (UA) 未分化型関節炎 の両方を対象とした研究においては発症時の高い疾患活動性にもかかわらずseronegative患者の方が予後が良い   Rheumatol 2014;41:2361–9.
  • X線写真の進行リスクに関しては、いくつかの研究でseronegative RA患者の方が低いと報告されており、その中には15-20年にわたるRA患者の長期追跡調査を含めている研究もある Clin Exp Rheumatol 2016;34:641–5.
  • seronegativeのarthritides関節炎はheterogeneous不均一な性質を持っているため、発症時にこれらの患者の予後を予測することはできない
  • 患者の中にはDMARDsによる強力かつ長期の治療が必要となるものもいるが、多くの患者は長期的には慢性あるいは破壊的な炎症性疾患を発症することはない
  • このような不均一な関節炎群に対する鑑別診断の検査がないため、これらの患者さんを密に経過観察し、病気の経過や進展を観察して、より厳格な分類を可能にすることが imperative 必須である
  • 著者らの以前の研究では、10年間のフォローアップ中に、当初seronegative RAと診断された臨床コホートの患者の大多数が、より特異的なリウマチ性疾患に分類される可能性があり、その中にはSpA症例として再分類された患者の4分の1が含まれていることが示されている Clin Exp Rheumatol 2019; 37:37–43.
【本研究の目的】
  • 本研究では、national registry dataを使用してFinlandでseronegative RAと初期診断された患者における、新規 SpA診断の全国的な発生率を評価すること

【Methods】

フィンランドでのリウマチ疾患の医療制度について
  • the Social Insurance Institution (SII) という社会保険制度があり、フィンランドに住むすべての人に社会保障が提供されている
  • RA, SpA and PsAのような長期炎症性リウマチ疾患患者はリウマチ専門医が提供する診断書をSIIに提出することでDMARDsの特別償還(総費用の40~65%)が受けられる
  • SIIの登録に加え、フィンランドでは多くの公的な登録が、全住民を対象としたnationwideで信頼性の高いデータを提供している Rheum Dis Clin 2004;30:851–67.
  • The Care Registers for Social Welfare and Health Care (HILMO) は The National Institute for Health and Welfare (THL) が管理するフィンランドのnationwideなregisterであり、体系的に登録され、一次医療と二次医療における外来受診に関する様々なデータが含まれており、すべての診断が含まれている
People
SII全国登録データから、2000年1月1日から2014年12月31日までにseronegative RAの診断され、上記の特別償還を受けた18歳以上の患者
seronegative RA患者のうち2016年12月31日までにHILMO登録に登録された新規にspondyloarthritis(SpA) 脊椎関節炎の診断を受けたの患者(以下を含む)を特定した(ただしReactive arthritisは短期間の疾患であり、除外)
  • PsA 乾癬性関節炎
  • non-radiographic axial SpA (nr-axSpA) X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎
  • ankylosing spondylitis (AS) 強直性脊椎炎
  • IBD (ulcerative colitis and Crohn’s disease)
Statistical methods
  • Kaplan–Meier curves(adjusted for sex using inverse probability weighting)
  • Cox proportional hazards regression models

【Results】

  • 2000年から2014年の間で、DMARDs適応のあるseropositive RA患者は18163人(66.9% female)
  • seronegative RA患者は9784人(68.6% female)で564人(61% female)がSpAと新たに診断された(それぞれの内訳は以下の通り)
    • 275人 (48.8%) PsA patients
    • 245人 (43.4%) nraxSpA及びAS
    • 44人 (7.8%) IBD patients.
  • その間の有病率は5.5%
  • 患者の平均年齢は45歳
  • seronegative RA と再度診断された患者平均年齢は 56歳であった
診断の累積変化
診断の初期年齢と診断の変更リスク

【Discussion】

  • seronegative arthritis関節炎の鑑別診断は様々である(以下はSpAの種類)
    • PsA
    • nr-axSp
    • AS
    • IBD-related arthritis IBD関連関節炎
    • reactive arthritis 反応性関節炎
    • undifferentiated SpA 未分化型SPA
  • SpA疾患の臨床症状(以下に示す)は不均一である Nat Rev Rheumatol 2012;8:253–61.
    • inflammatory back pain 炎症性腰痛
    • oligoarthritis predominantly of the lower limbs 下肢優位の関節炎
    • dactylitis 指趾炎
    • enthesitis 腱付着部炎
    • extra-articular manifestations – uveitisブドウ膜炎, psoriasis乾癬 and IBD
  • SpAの疾患群は、初期のseronegative RAの鑑別診断の一つである
    • 2019年の研究では435人の初期のseronegative RA患者の10年間の追跡調査でSpAの疾患が24% Clin Exp Rheumatol 2019; 37:37–43.
    • 2002年の研究で64人のseronegative UA患者を20年にわたり追跡調査し(63%)がmild spondyloarthritides軽度の脊椎関節炎に罹患していた Clin Rheumatol 2002;21:353–6.
  • seronegative RAからSpAへ診断が変化する可能性は、現実にはもっと高そう、その理由として
    • 関節炎に対してDMARDの保険適用治療を受けている患者が、薬剤の効果で関節外症状(大腸炎や乾癬など)を必ずしも常に発症しているとは限らないため正しい診断に至らない。
    • 臨床症状が軽い場合はDMARDsに反応してSpAに関連した関節外症状を経時的に発症するとは限らない
    • その他、アウトカムが悪くなければクリニックに通わず、SpAの症状や徴候に気づかずに、診断を見逃してしまう
  • 最近の研究でseropositive RAが増えてきているのは、ACR/EULARの診断基準に対応しているためだろう
PsAについて
  • PsAはSpAグループの中で最も頻度が高い
  • PsAの診断は、初期には困難な場合がある
  • PsAには様々な亜型があり、関節病変は非常に多様である。少関節炎として現れることもある
  • 手足の小関節を侵し、RAと同様の挙動を示すこともある(RA様) Clin Exp Rheumatol 2018;36 (Suppl 1):24–34.
  • PsA患者の最大15%において、関節炎が皮膚疾患に先行すると推定されている N Engl J Med 2017;376:957–70.
  • PsAの初発症状が小関節の多発性関節炎である場合、血清反応陰性RAと誤診されることがある
  • しかし、皮膚病変とは別に、RA様PsAと真のRAを区別する特徴の1つは、enthesitis
  • enthesitisはRAでは一般的ではないがPsAでは有病率は35%に達すると報告されている Arthritis Care Res (Hoboken) 2017;69:1685–91.
axSpA 体軸性脊椎炎について
  • axSpA 体軸性脊椎炎に関しても、軸索症状はベースラインで常に存在するとは限らない。関節炎や指炎のような末梢症状は、SPA患者の30~50%に認められ、来院時や既往歴にも見られると推定される Lancet 2017;390:73–84.
Limitation
  • 本研究で使用した2つの全国的な登録簿には、分類基準を満たす臨床データが含まれていないこと
  • すべてのSpA関連診断が、リウマチ科クリニックで系統的に登録され、さらにHILMO登録に登録されていない可能性があること
Strength
  • 本研究が初めてseronegative RAと診断された患者における新規にSpAと診断された発生率を、具体的に検討した