Journal Club 雑記

MCP関節の伸筋腱周囲の腱鞘の存在

Evidence for the presence of synovial Open Access  sheaths surrounding the extensor tendons at the metacarpophalangeal joints: a microscopy study. Arthritis Res Ther. 2022 Jun 24;24(1):154.

【Introduction】

  • Human anatomy人体解剖学は医学教育の最も古い礎となるものだが、MRIなどの最新画像技術により人体をより詳細に可視化できるようになり、いまだにこの進歩が続いている分野である
  • ただ、画像で検出されたものをどのように解剖学的に解釈するかという問題も提起されている Australas Med J. 2015;8(12):373–7.
  • 関節リウマチ(RA)では、手足のtenosynovitis腱鞘炎、すなわち腱を包む滑液鞘(腱鞘)の炎症のことであるが、腱鞘炎がRAに特徴的であることが最近報告された Ann Rheum Dis. 2020;79:546–7.
  • RA患者の足では、MRIで検出される炎症が中足趾節関節(MTP)腱の周囲によく生じる
  • 驚くべき事に、これらの腱が滑膜鞘に囲まれているかどうかは、解剖学的な文献では未解決のままであった
  • 最近の解剖学的研究により、これらの腱はflexor屈曲側とextensor伸展側の両方に滑液鞘(腱鞘)を有していることが判明し、RAにおけるMTP-腱の周囲でMRIにより検出された炎症が腱鞘炎であることが示唆された Radiology. 2020;295(1):146–54.
  • また関節痛のある患者では、MCP-伸筋腱周辺の造影はRA発症の高いリスクとなる Clin Exp Rheumatol. 2018;36 Suppl 114(5):131–8.
  • 解剖学アトラスによると、MCP-伸筋腱には腱鞘がなく、それゆえ伸筋腱周囲の炎症は「peritendinitis 腱周囲炎」と呼ばれている
  • これらの解剖学的画像の出典は不明であり、著者らの知る限り、これらの伸筋腱の滑膜鞘の有無はまだ研究されたことがなかった
  • 著者らはMCP-伸筋腱の周囲の組織はMTP関節と変わらないため、腱鞘が存在すると仮定した
本研究の目的
  • 現在の解剖学的情報を再考して、初期のRAで炎症を起こす組織についての理解を深めること

【Method】

  • MCP関節の伸筋腱の顕微鏡検査を行い、滑膜組織のマーカー(fibroblast-like synoviocytes線維芽細胞様滑膜細胞およびマクロファージ)の免疫組織化学染色を実施した
  • 研究・教育用に提供された遺体から得られた、防腐処理済みのヒトの手3本を解剖した
    • 研究対象のなった患者は形態学的徴候やRA既往のない人(77歳、90歳男性、92歳女性)である
      • 最初の2つの手から、皮膚、皮下組織、母指伸筋腱、周囲の結合組織およびその下の骨を含むブロックがMCP関節の部位から採取された後に、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色でルーチンの組織検査が実施された
      • 3つ目の手の検体から、骨の要素を除いた第3MCP関節で組織のブロックを採取した
      • この標本について、HEに続いて、抗CD68(マクロファージの検出)抗CD55(線維芽細胞様滑膜細胞の検出)および抗カドヘリン-11(線維芽細胞様滑膜細胞の検出)抗体で免疫染色を行った

【Result】

  • HE染色した横断面を顕微鏡で観察すると、指伸筋腱の背側に薄い空間が観察された(図A-C)
    • 腱の掌側には、主にコラーゲンからなる凝縮した結合組織が存在した
      • これは第3 MCP-jointの伸筋腱の結果を示しているが、他のMCP-jointも同様な像を示している
  • 伸筋腱周囲の結合組織をさらに特徴付けるために、免疫組織化学染色を行った(図D)
    • これはCD68、CD55、カドヘリン-11の発現を示し、マクロファージや線維芽細胞様の滑膜細胞の存在と一致した
      • 特に腱の背側(レーン1)では、CD55とカドヘリン-11に陽性な薄い層が自然腔を境にして検出された
        • また、この層にはCD68陽性のマクロファージが存在した。
      • 腱の掌側の組織(レーン2)では、カドヘリン-11の発現がない一方で、CD55が広く発現しており、散在する線維芽細胞と一致した
        • さらに、散在するマクロファージがいくつか検出された
  • この顕微鏡観察の結果は、MCP関節の伸筋腱付近に滑膜組織が存在することの証拠を示しており、RAで観察されるこれらの腱周囲の造影効果は腱鞘炎、すなわち滑膜組織の炎症であることを示唆している
  • RA患者および対照群の伸筋腱の解剖学的/組織学的研究が究極の証拠となるだろう
    • 滑膜の炎症は過形成と滑膜の肥厚が関与することが知られている Histopathology. 2008;52(7):856–64.
      • ゆえに、おそらくは、腱周辺の炎症が活発であれば、使用するマーカーの発現が高くなる可能性がある
      • しかし、そのようなサンプルを入手することは困難である
      • 著者らの知る限りでは、長年の活動性RA患者の腱膜の病理組織学的研究は、手首レベルの伸筋腱を調べた1件のみ Histopathology. 2008;52(7):856–64.
  • RAやその前の段階の腱鞘炎に関する病理組織学的研究は、どの部位であっても不足しており、今後の研究課題である
  • 興味深いことに、MCP-伸筋腱周囲のMRIで検出された造影効果は、ほとんどが腱の背側で観察された。
    • これは腱のdorsal side背側で最も顕著に滑膜組織マーカーが発現していることと一致している
    • 腱の手掌部では、滑膜の内膜は不明瞭であった
      • このことは、健常者においては、この炎症のない組織が、薄くてもろいということから説明できるかもしれない
    • さらに、指の屈曲時に亜脱臼を防ぐために伸筋腱を相互に連結している、線維性のバンドあるも役割があるかもしれない
      • この密なコネクションは、palmar side 掌側では屈筋腱で観察されるような上皮で覆われたスペースが存在しない可能性がある
  • また、MRIの造影効果はは屈筋腱の周囲に比べ、より平坦である
おそらくこれは、前述した線維性バンドによって部分的に説明できる可能性があり、腱鞘を圧迫していることが一因と考えられる
  • 伸筋腱は解剖学的に屈筋腱よりも小さく、MCP関節の高さでフラットになり、そこで虫様筋と骨間筋の背側拡張と合体してextensor hoodになる Chang Gung Med J. 2011;34(6):612–9. J Anat. 2008;212(3):211–28.
    • 解剖学的変異を研究するために、より多くの検体を用いたさらなる研究が必要である

※extensor hood

※extensor hood を取り除いた図

  • 著者らのデータは、RAにおける伸筋腱周囲の造影効果は腱鞘炎であることを示唆しており、下図で提案したようなクラシックな手の解剖学的写真の修正が必要となる可能性がある
  • このように、画像診断の進歩は、これまでの思い込みを覆して、解剖学的知識を見直す集学的研究につながる
  • そして結果としてRA発症に関与する組織についての理解を深めることになり、このような研究は最終的にはRA病態の解明に寄与する