Journal Club 雑記

MAS(macrophage activation syndrome)におけるサイトカインと標的治療

 

Understanding of cytokines and targeted therapy in macrophage activation syndrome. Semin Arthritis Rheum. 2021 Feb;51(1):198-210.

 

【Introduction】

  • Hemophagocytic lymphohistiocytosis (HLH) 血球貪食性リンパ組織球症とは、過剰なTリンパ球とマクロファージの活性化による hyper-inflammatory syndrome の一群であり、結果としてサイトカインの調節異常と血球貪食が生じて多臓器不全を引き起こす Annu Rev Pathol 2018;13:27–49.
  • HLHは 家族性HLH と 後天性HLHに分けられる
    • Familial HLHは常染色体劣性遺伝性の免疫疾患群でcytolytic pathwayの遺伝子異常によって引き起こされ、しばしば乳幼児に発症する
    • 後天性HLHは通常、感染症、悪性腫瘍、炎症性疾患に続発し、older children、adolescents、adultsに好んで発症する Annu Rev Med 2012;63:233–46.
      • 後天性HLHのうち、自己炎症性/自己免疫性疾患を背景とするものはmacrophage activation syndrome (MAS) マクロファージ活性化症候群と呼ばれる
      • MASはリウマチ性疾患の患者の主要な死亡原因であり、20〜30%の死亡率が報告されている Nat Rev Rheumatol 2016;12:259–68.

【Methods】

  • PubMedとWeb of Scienceのデータベースを用いて、2010年1月1日から2020年8月31日まで以下のキーワードで検索
    • “macrophage activation syndrome”
    • “hemophagocytic lymphohistiocytosis”
    • “haemophagocytic lymphohistiocytosis”
    • “pathogenesis” and “clinical trial”
  • そのうち以下を主に選択した
    • MASのpathogenesis病態におけるcytokinesの記述に焦点を当てたstudies
    • MASのkey cytokinesに対する標的治療を評価したclinical trialsやcase serie

【Epidemiology】

  • 現在の知見では以下の2疾患が最もMASを発症しやすいとされている Annu Rev Med 2012;63:233–46.
    • systemic juvenile idiopathic arthritis (sJIA)全身型若年性特発性関節炎
      • 10%のみが顕性MASを発症、不顕性MASの発生率は30% Front Immunol 2019;10:119.
      •  女性の方がMASを発症そいやすく、男女比は2:3 Arthritis Rheumatol 2014;66:3160–9.
    • adult-onset Still’s disease (AOSD)成人発症型スティル病
      • 15%がMASを発症し、男女比は3:7 Clin Rheumatol 2020;39:2379–86. 
  • 全身性エリテマトーデスや川崎病など他のリウマリ性疾患に続発するMASは比較的まれ Open Access Rheumatol 2018;10:117–28.

【Manifestation】

  • MAS患者の症状は以下のとおり Arthritis Rheumatol 2014;66:3160–9.
    • persistent fever 持続する発熱
    • organomegaly (hepatosplenomegaly, lymphadenopathy) 臓器の腫大
    • multiple organ dysfunction 多臓器不全
    • pancytopenia 汎血球減少
    • coagulopathy 凝固障害
    • hyperferritinemia 高フェリチン血症
    • hypertriglyceridemia 高トリグリセリド血症
    • elevated soluble interleukin-2 receptor a (sIL-2Ra, sCD25)  可溶性IL-2受容体a(sIL-2Ra、sCD25)の上昇
    • hemophagocytosis 血球貪食
  • 迅速に治療しなければ、急速に多臓器不全に進行する可能性もある

【Diagnosis】

  • 適時診断と迅速な治療がMAS患者の予後を改善するためには必要不可欠である Open Access Rheumatol 2018;10:117–28.
  • しかしMASの特異的な臨床的・検査的マーカーが現在存在しないので、MASの早期診断は依然として難しい Annu Rev Med 2012;63:233–46.
  • また、膠原病疾患のフレアや敗血症様症状が背景にあったり、MASと重複した症状を呈するような状況の場合も同様に診断は困難である Arthritis Rheumatol 2014;66:3160–9.
  • このような診断の難しさから、医師がMASを早期に発見して混同しやすい疾患と区別するのに役立つ、信頼性の高い基準が求められている
  • MASはHLHの一種であり、MASの診断にはHLH-2004ガイドラインが推奨されているが、早期診断には適切ではない(下図参照)Pediatr Blood Cancer 2007;48:124–31.
  • cytopenia細胞減少やhemophagecytosis血球貪食のような症状は、MASの後期まではっきりしないこともある。
  • natural killer (NK) cell activity や sCD25 level の検査には時間がかかり、ほとんどの病院ではルーチン検査としては施行されていない Annu Rev Pathol 2018;13:27–49.
  • 現在、以下の記載しているような新しい診断基準が開発・適用されているが、これらの基準は、MAS診断においてより高い感度と特異性を有するが、sJIAの状況下で作成された基準では、他のリウマチ性疾患にうまく適応できない可能性があり、一部のMAS患者では非典型的な症状のため見落とされる可能性もある Paediatr Drugs 2020;22:29–44.
    • preliminary diagnostic guidelines J Pediatr 2005;146:598–604.
    • Paediatric Rheumatology International Trials organization collaborative initiative classification criteria Ann Rheum Dis 2016;75:481–9.
    • HScore  Arthritis Rheumatol 2014;66:2613–20.
    • MAS/ sJIA score Ann Rheum Dis 2019;78:1357–62.
  • 以上、理由から、現場では患者パラメータを経時的にモニタリングすることが早期診断につながる最適な方法であると主張する研究もある Open Access Rheumatol 2018;10:117–28.

【Pathogenesis】

  • MASのトリガーとしては、活動性のリウマチ性疾患、感染症、薬剤、autologous bone marrow transplantation自家骨髄移植といった様々な誘因と関連することが示されている Arthritis Rheumatol 2014;66:3160–9.
  • MASの半数以上は活動性のリウマチ性疾患の状況下で発症し、20%の症例は疾患発症時に発症する  Arthritis Rheumatol 2014;66:3160–9.
  • MASの患者は、高い疾患活動性スコアを示すことが多いため、リウマチ性疾患の活動性を評価することは重要

感染

  • 感染はMASSの一般的なトリガーであり、患者の30%に検出される Arthritis Rheumatol 2014;66:3160–9.
  • ウイルス感染は、MAS患者で報告された最も一般的な随伴感染症であり、中でもEpstein-Barr virus (EBV)EBウイルスが最も一般的な原因であり、その他の病原体としては以下のものが報告されている  Autoimmun Rev 2017;16:743–9.
    • cytomegalovirus (CMV) サイトメガロウイルス
    • chikungunya チクングニア
    • Staphylococcus aureus, 黄色ブドウ球菌
    • Escherichia coli 大腸菌
    • Enterococcus faecium 腸球菌
    • Salmonella サルモネラ
    • Tuberculosis bacillus 結核菌
    • Histoplasmosis capsulati ヒストプラスマ
    • Strongyloides stercoralis ストロニロイデス属
    • Pneumocystis jirovecii ニューモシスチス・ジロペチー
  • また、敗血症や現在流行しているCOVID-19のような感染症にも、サイトカインストームを含むMAS様症状を呈しうることに留意すべきだろう JCI Insight 2020;5.
  • ただ、その場合は感染症として、その状況を対処されるべきであり、HLHの状況下として以下のように分類したほうが良い Blood 2019;133:2465–77.
薬剤
  • MASの4%がNSAIDsや抗リウマチ薬、生物学的製剤がトリガーであると報告されている。ほとんどの例で生物学的製剤が関与している

遺伝学

  • familial HLHに関連する遺伝子は以下の通り。これらはMAS患者で検出されている
    • PRF1
    • UNC13D
    • STX11
    • STXBP2
    • RAB27A
    • LYST
  • ヘテロ接合型でその頻度は40% Front Immunol 2019;10:119.
  • 通常、ウイルス感染細胞などの標的細胞に遭遇すると、CD8 + Tリンパ球やNK細胞は、グランザイムやパーフォリンを放出して標的細胞の破壊を誘導、細胞障害性免疫細胞の抗原刺激を除去して、最終的に免疫反応をcontraction・terminationさせる Annu Rev Med 2012;63:233–46. 
  • 家族性HLH遺伝子のヘテロ接合体変異は
  • リンパ球の細胞傷害性が低下しているため、標的細胞の生存期間を延長して免疫反応の収束を遅らせる
  • そしてそれが、Tリンパ球やマクロファージの持続的な活性化とその結果、炎症性サイトカインを大量に産生させてしまう Nat Rev Rheumatol 2016;12:259–68.
MASとHLHの病態生理に関与するhyper-inflammationassociated genetics
  • Defects in myeloid differentiation factor 88 (MyD88) Proc Natl Acad Sci U S A 2019;116:2200–9.
  • De novo missense mutation in inflammasome nucleator NLR-family CARD domain-containing protein 4 (NLRC4) Nat Genet 2014;46:1140–6. 
  • NLRC4 and NLRP12 and biallelic variants in NLRP4, NLRC3, and NLRP13 Blood 2018;132:89–100.
  • Interferon regulatory factor 5 (IRF5) and MEFV polymorphisms

Immunopathogenes   Front Immunol 2019;10:119.

Hemophagocytosis

  • Hemophagocytosis血球貪食 はMAS診断の手がかりとなるが、血球貪食はMASの後期におこる
  • 骨髄、脾臓、肝臓、リンパ節などMAS biopsiesの60%の検体でしか検出されない Arthritis Rheumatol 2014;66:3160–9.

Interferons: IFN-γ

  • IFN-γは唯一のtype II IFNであり、自然免疫細胞および適応免疫細胞、特に NK 細胞と T 細胞から分泌されるマクロファージ活性化の重要なメディエーター Arthritis Rheum 2013;65:1764–75.
  • MAS/HLHの病因において重要
    • ウイルス感染によってIFN-γはは活性化するが、激しい IFN-g signatureはMASの臨床的特徴を示す患者にのみ起こる
    • IFN-γとのその誘導ケモカインの上昇は好中球と血小板の減少、フェリチンとALTの上昇と強く相関する Ann Rheum Dis 2017;76:166–72.
  • Anti-IFN-γantibodiesの投与はMASやHLHのモデルマウスにおいて、LPS-challenged IL-6 transgenic mice , LCMV-challenged PRF1- and RAB27A-deficient mice などの疾患の重症化を抑制する J Allergy Clin Immunol 2018;141:1439–49.  EMBO Mol Med 2009;1:112–24.
  • Th1-およびTh2-優位のモデルマウスはIFN-γの刺激をうけることで、各々がIFN-γを介した病理学的および免疫調節に感受性が高くなる Arthritis Rheumatol66, 1072À6,
  • 活動的なHLH患者のperipheral blood mononuclear cells(PBMC)末梢血単核細胞において、あるものは発現が上昇し、あるものは発現が低下するという、多様なIFN-γ遺伝子signatureが報告されている
  • 注目すべきは、HLHはIFN-γシグナル伝達経路に欠陥のある患者にも起こる Front Pediatr5, 75,
  • 未治療のHLH患者と健常小児患者群のPBMCにおけるIFN-γおよびIFN-γ応答性遺伝子の発現の差は認められなかった Blood 2011;117 e151-160.
    • pathogenesisにおいてIFN-γの独立したメカニズムの存在を示唆している
  • MAS/HLHpathogenesisでは血液学的要素と炎症内要素の間で顕著な二面性がある J Allergy Clin Immunol 2019;143 2215-2226 e2217.
    • IFN-γは、血液学的特徴にのみ関与している
    • IFN-γノックアウトでは家族性及び後天性HLHのマウスモデルにおいて貧血を完全に改善するが、免疫活性化や生存には影響を及ぼさなかった
    • 貧血のmolecular pathwayとして、IFN-γがマクロファージを介して血球破壊を促進し、またextramedullary hematopoiesis髄外造血を破綻させるためと考えられている
  • 一部の研究に限ってはtype I IFN-α/βもMAS/HLHの病態に関与していると言われている
  • STAT2)の欠損はI型IFNのシグナル伝達を阻害し、重度のウイルス感染症の再発や後天性HLHを誘発していまう J Allergy Clin Immunol 2017;139 1995-1997 e1999.
  • IFN-α/βがTLR刺激と相乗してIL-18(IFN-γ誘導因子)の発現を促進し、その結果、MASにおける全身性のin-flammationを促進してしまうのではないかと考えられている Am J Respir Crit Care Med 2020;201:526–39. 
Interferons: IL-18
  • IL-18はもともとIFN-γ誘導因子である
  • 関節リウマチや全身性エリテマトーデスのような他のリウマチ性疾患ではIL-18はmoderatelyに上昇するが、sJIAやAOSD患者では血清IL-18が有意に上昇するという報告がある Clin Immunol 2016;169:8–13.
  • sJIAとAOSD患者において、血清IL-18/IL-6比は、IL-6優位のサブセットとIL-18優位のサブセットに分類され、IL-18 優位サブセット患者は MAS を合併しやすく、これらの患者で MAS が発症すると IL-18 がさらに上昇する Clin Immunol 2015;160:277–81. 
  • IL-18 binding protein (IL-18BP) はIL-18 receptorよりもはるかに高い親和性をもつ結合蛋白である。ゆえにIL-18BPはIL-18活性を相殺するので、MAS患者におけるIL-18濃度を解釈する際には、総IL-18よりも遊離IL-18の濃度がより重要であり、実際、HLHとMASの患者では、IL-18とIL-18BPが同時に上昇している
    • 遊離IL-18は、HLHやMASの臨床状態や生物学的マーカーと強い相関があるため、MASの診断に役立つ
      • 貧血、高トリグリセリド血症、高フェリチン血症、IFN-γ、sCD25、sTNFRの免疫マーカー
    • 血清IL-18 >47,750 pg/mL : sJIA患者におけるMAS発症を予測するカットオフ値 Clin Immunol 2015;160:277–81. 
    • 血清IL-18 >24,000 pg/mL : MASと家族性HLHを区別するマーカーとして有効 Blood 2018;131:1442–55
  • IL-18はNK細胞活性を調節するが、高濃度のIL-18にさらされたMAS患者は、しばしばNK細胞の細胞障害とNK細胞リンパ球減少を特徴とするNK細胞機能不全を呈する J Pediatr 2003;142:292–6.
    • 重度のIL-18/IL-18BPのアンバランスにより、制御不能なTh1リンパ球とマクロファージの活性化を助長し、NK細胞を介した細胞障害による制御が外れてしまい、基礎疾患を持つ患者のMAS発症してしまう Blood 2005;106:3483–9.
      • recombinant IL-18BPを投与することで、MAS患者の臨床症状や臨床検査値異常を速やかに改善することができる J Allergy Clin Immunol 2017;139:1698–701.
      • IL-18をBlockingすることは、FN-γのBlockingと同様に効果的で、疾患マウスのMAS/HLH重症度を減弱させる

Interferons: IL-6

  • NK 細胞活性の重要な調節因子 Front Immunol 2019;10:119.
  • NK細胞をIL-6に暴露すると、パーフォリンとグランザイムBの発現が低下し、それによって細胞毒性が低下する
  • しかしこれはIL-6阻害剤トシリズマブの添加によって機能を改善させることができる。
  • ゆえに、MAS患者における高濃度のIL-6は、NK細胞の機能不全に部分的に関与している可能性がある Clin Immunol 2016;169:8–13.
  • IL-6はIL-18ほどMAS患者では高濃度ではない
  • IL-18優位患者と異なり、sJIAとAOSDのIL-6優位の患者は、より関節炎を起こしやすい[ことが分かっている Clin Immunol 2015;160:277–81.
  • またtocilizumabの市販後調査において、使用群と未使用群でsJIA患者のMASの頻度に差はない Nat Rev Rheumatol 2016;12:259–68.
  • MASの発症を防ぐことはできないが、発熱や血小板低下やフェリチン低下などの検査値を改善しうる Arthritis Care Res (Hoboken) 2018;70:409–19.

フェリチン/赤血球沈降速度比

  • sJIAに伴うMASの診断を簡略化する実用的なツールでカットオフ値21.5 ACR Open Rheumatol 2019;1:345–9. 

【Treatment】

  • Corticosteroid therapyがMAS治療のfirst-line choiceであり、初期治療としてパルスがよく行われている。パルス後は維持療法で漸減していく Blood 2019;133:2465–77.
  • ステロイド抵抗性があれば、cyclosporineを使用する Open Access Rheumatol 2018;10:117–28. 
  • cyclosporine抵抗性があればEtoposideの使用する手段もあるが、副作用も強いため、50-100 mg/m2 once weeklyで使用推奨 Blood 2019;133:2465–77.
  • plasma exchange血漿交換, leukocytapheresis白血球タフェレーシス, plasma diafiltration血漿透析といったTherapeutic apheresisは難治性MAS患者の疾患寛解に有効であるとの報告もある J Clin Apher 2018;33:117–20.

 

生物学的製剤

  • IL-1, IL-6 ,TNF-a inhibitorsがMASの劇的な改善につながったという報告がある Drugs 2020;22:29–44.
  • AnakinraアナキンラはIL-1 受容体拮抗薬(IL1a と IL-1b を阻害)で特に高用量で疾患経過の早い時期に投与した場合、MAS 治療に有効であることが証明されており、現在Targeted therapyにおけるfirst-line Blood 2019;133:2465–77.
  • アナキンラで1-2日でも改善しない場合は免疫抑制剤を追加する。
  • canakinumab や rilonacept など他のIL-1 受容体拮抗薬のMASへの効果はほぼ報告なし Nat Rev Rheumatol 2016;12:259–68.
  • emapalumabはIL-18を中和するIL-18BPやIFN-γをターゲットとするモノクローナル抗体。MAS患者の症状、検査値を改善した報告があり、現在sJIAに伴うMASに対して第二相試験進行中(NCT03311854).
  • JAK阻害薬はサイトカインカスケードの下流にJAK経路があるため、サイトカインの作用をブロックする。
  • ruxolitinib や tofacitinib などのJAK阻害剤はMAS治療への適応外使用としてうまく作用した報告もある Am J Respir Crit Care Med 2020;201:526–39.
  • Rituximab(CD20)が効いた報告もある Blood 2019;133:2465–77.
  • Alemtuzumab(CD52)が効いた症例が1例のみある J Clin Rheumatol 2012;18:134–7.