Journal Club 雑記

GCAにおける組織破壊と血管新生に関与するマクロファージサブセット: YKL-40とIL-13Rα2

A Distinct Macrophage Subset Mediating Tissue Destruction and Neovascularization in Giant Cell Arteritis: Implication of the YKL-40/Interleukin-13 Receptor α2 Axis. Arthritis Rheumatol. 2021 Dec;73(12):2327-2337.

 

【背景】

  • Giant cell arteritis (GCA) は中大動脈が傷害される炎症性疾患で失明や脳卒中といった重大な急性合併症を引き起こす可能性がある Autoimmun Rev 2017;16:833–44.
  • GCAは一般的にglucocorticoids (GCs) グルチコルチコイドにて治療されるが、最近はIL-6受容体阻害薬であるtocilizumabトシリズマブがスペアリングで使用されるようにもなった N Engl J Med 2017;377:317–28.
  • 長期にわたる大動脈の炎症は動脈瘤や大動脈解離の発生と関与している Medicine (Baltimore) 2004;83:335–41.
  • GCsとtocilizumab の治療は症状を改善することはできるが、くすぶっている血管の炎症自体を抑制するかどうかはわからない Rheumatology (Oxford) 2018;57:982–6.
  • GCA患者の血管壁の炎症は、主にT細胞とマクロファージが関与するgranulomatous tissue reaction肉芽腫性組織反応によって特徴付けられる Autoimmun Rev 2017;16:833–44.
  • マクロファージは、進行中の炎症を促進するほか、以下の作用に関する因子を放出する
    • myofibroblast proliferation 筋線維芽細胞増殖 (e.g., platelet-derived growth factor小板由来増殖因子)
    • angiogenesis血管新生 (e.g., vascular endothelial growth factor [VEGF]血管内皮増殖因子)
    • tissue destruction組織破壊 (e.g., matrix metalloproteinase 9 [MMP-9]マトリックスメタロプロテアーゼ9)
  • これらのプロセスは、GCAの重篤な合併症に関連する病理学的変化の原因となっていおり、内膜過形成による血管閉塞や中膜破壊による動脈瘤などを引き起こす
  • いくつかの研究で示されている重要なこととしては、治療を行ってもGCA患者ではマクロファージの活性が持続することが示されており、現在利用可能な治療では局所的な炎症反応を十分に抑制できない Ann Rheum Dis 2020;79:576.
  • ゆえに、血管壁の炎症と破壊を十分に食い止めるための新しいstrategiesやtargetsが必要である
  • 著者らは最近、GCA病変における機能的にheterogeneous不均一なマクロファージサブセットについて報告しているが、これはおそらくgranulocyte–macrophage colony-stimulating factor (GM-CSF)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を含む局所シグナルに起因するものであろう Clin Transl Immunology 2020;27;9:e1164.
  • 著者らはfolate receptor βの発現を欠いているが、マンノース受容体CD206は高度に発現をしている、特異なマクロファージサブセットが中膜の中およびその周辺に存在することを証明した
  • 重要なことは、これらのCD206+マクロファージがMMP-9をexclusively独占的に発現しており、これらの細胞が中膜破壊に重要である可能性があるということ
  • さらに、MMP-9は内皮細胞の移動と血管新生の重要なメディエーターであり、血管壁へのT細胞およびマクロファージの動員を促進すると報告した人もいる Circ Res 2018;31;123:700–15.
  • その後のin vitroの実験で、CD206+マクロファージの表現型が、GCA病変部に豊富に発現している成長因子であるGM-CSFとマクロファージを共培養することで、誘導できることが示された Clin Transl Immunology 2020;27;9:e1164.
  • GCAにおけるCD206+マクロファージサブセットの表現型と機能をより詳細に研究する必要があり、cancer immunologyの観点から着目した
    • つまりGCA病変にGM-CSFが豊富にあり、CD206のマクロファージが誘導されてMMP-9を産出しているのではないか
  • 腫瘍関連マクロファージは、腫瘍の成長を促進して、生存率の低下と関連している J Leukoc Biol 2015;98:931–6.
  • 先行研究では、血管新生や組織破壊を含む様々な炎症および組織リモデリングプロセスによって腫瘍関連マクロファージが産生するYKL-40(chitinase 3–like protein 1)が、重要な役割を果たすことが示唆されている
  • その上、YKL-40は、MMP-9産生の上流シグナルとして関与している Int J Cancer 2012;15;131:377–86.
  • GCAを含む自己炎症性疾患においてYKL-40の血清レベルが上昇しているという初期の報告がある。
    • ちなみに、これはRAやCOPDなどでも上昇している
  • GCAの免疫病理におけるYKL-40の役割については、あまり分かっていない Arthritis Rheum 1999;42:2624–30.
  • YKL40はキチナーゼ様タンパク質である。つまり、キチンに結合することはできるが、酵素活性がないため、キチンを切断することはできない J Leukoc Biol 2015;98:931–6. 
    • つまり、まだ何の作用のある蛋白か分かっていない
  • マクロファージなどの自然免疫細胞によるYKL-40の産生は、サイトカインであるIL-6、IL-1β、インターフェロン-γ(IFNγ)など様々な刺激によって誘導される Blood 2006;15;107:3221–8.
  • 以前の研究で、YKL40の血清レベルが、診断時にGCA患者で上昇し、GC治療後に正常化しないことを報告した
  • 一方で、CRPなどの急性期マーカーは、GCAではIL-6に強く依存しているため、GCやトシリズマブによる治療で強く抑制される Arthritis Rheumatol 2019;71:1329–38.
  • さらに、GCA側頭動脈生検の検体ではYKL-40がrichに発現していることが証明されている Arthritis Rheum 1999;42:2624–30.
  • しかし、YKL-40を産生するある特定の細胞タイプや、GCAの免疫病態におけるYKL-40の役割についてはまだ不明
  • IL-13受容体α2(IL-13Rα2)は、IL-13Rα1とは異なりIL-13のhigh-affinity高親和性の受容体で、細胞質内にシグナル伝達においてcytoplasmic tailを欠いているため、以前はIL-13のデコイ受容体でシグナル伝達はないと考えられていた Structure 2010;18:332–42.
  • 最近の研究では、IL-13やYKL-40がIL-13Rα2に結合すると、ntestinal epithelial cells腸管上皮細胞、nasal epithelial cells鼻腔上皮細胞、グリオブラストーマ、dendritic cells状細胞、マクロファージにおいて、MAPK、Akt、ERK、STAT3経路が活性化することが明らかになった Sci Rep 2020;10:1017. Allergy 2018;73:1673–85. Invest Ophthalmol Vis Sci 2019;60:4596–605.
    • YKL-40はIL-13Rα2のリガンドといわれている。その他にもガレクチン-3のリガンドとしての報告もある
  • GCAにおけるこの受容体の発現は、これまでのところ報告されていない

本研究の目的

  • YKL40がどの細胞由来であるかを明らかにし、GCAにおける血管病態への寄与しているかどうかを検討すること

概要

  • immunohistochemistry (IHC)免疫組織化学とimmunofluorescence免疫蛍光法を用いて、炎症を起こした側頭動脈と大動脈において、CD206+マクロファージのサブセットがYKL-40の主要なmain cellular source細胞源であることを同定した
  • 次に、同じ組織でIL-13Rα2の発現を調べ、炎症部位でYKL-40のシグナルがあるかどうかを確立した
  • YKL-40が組織破壊因子であるMMP-9のupstream modulator上流調節因子 であるかどうかを評価するために、monocyte-derived macrophages単球由来マクロファージ を用いて、YKL40とMMP-9の発現動態に関するin vitro実験を行った
  • 最後に、YKL-40が血管新生に作用する可能性があるかをin vitro in a tube formation assayで確認した。
  • 結果として今回の研究ではGCAにおける組織破壊と血管新生(または新血管形成)にYKL-40/IL-13Rα2の軸が重要な役割をもっていることを示唆した

【患者】

  • 生検でGCAの所見があるこれまで治療歴のない患者の12個の側頭動脈生検サンプルを用いた
  • また未治療のGCA関連動脈瘤患者からの炎症性大動脈組織サンプル10個も用いた。
  • コントロールとして10個の非炎症性側頭動脈生検サンプルを用意し、サンプルを採取した患者詳細は以下の通り
    • PETでGCAが証明された患者が3名
    • PMRのみの患者が5名
    • GCAもPMRもないが2名

【結果】

IHC and triple fluorescence multispectral imaging

  • 組織はYKL-40およびIL-13Rα2を標的とする抗体で染色
  • YKL-40とマクロファージ転写因子PU.1に対する二重染色を行いマクロファージによるYKL-40の発現を確認した
  • GCA患者からの側頭動脈生検サンプルは以前の論文と同様に半定量的に採点した Arthritis Rheumatol 2014;66:1927–38.
  • 試料を0〜4の5段階の半定量的スケールで採点
    • 0 = no positive cells,
    • 1 = occasional positive cells (0–1% estimated positive),
    • 2 = small numbers of positive cells (>1–20%),
    • 3 = moderate numbers of positive cells (>20–50%),
    • 4 = large numbers of positive cells (>50%)
  • またcolocalization study共焦点化研究 のために、CD206、YKL-40、MMP-9の3重に免染した

 

Monocyte-derived macrophages

  • M-CSFはYKL-40とは関与していなさそう。GMCSFとM-CSFでは機序がもともと異なるためか

Small interfering RNA (siRNA) knockdown of YKL-40.

  • GM-CSFの存在下で単球由来マクロファージを生成して6日目に、マクロファージを回収
  • YKL-40 siRNA か nontargeting control siRNA でトランスフェクションさせた
  • 24時間後に培地をGM-CSFを含む新鮮な完全培地に交換し、さらに24時間培養
  • その後、LPSを含むor含まないGM-CSF含有完全培地で培地をリフレッシュ
  • 24時間後、培地をELISA用に回収し、RNA抽出および定量ポリメラーゼ連鎖反応解析用に細胞溶解
  • 結果として、YKL-40 mRNAについて80〜95%のノックダウン効率を示した

Tube formation assay

  • Human microvascular endothelial cells(HMVECs;Lonza)ヒト微小血管内皮細胞を150 ng/ml YKL-40 (Organon; MSD), 1,500 ng/ml YKL-40, or 20 ng/ml VEGF (PeproTech)の三重に培養した
  • HMVECを16時間培養した後、TissueFAXSシステムでスキャン
  • Tube formationチューブ形成は、in a blinded manner盲検下でvisible enclosed fieldsの数を数えて評価

【議論】

  • CD206+MMP-9+マクロファージやgiant cells巨細胞から分泌されるYKL-40が、MMP-9分泌や新生血管形成を促進することでGCAにおける血管病変を媒介する可能性があることを示唆した
  • 1999年にGCA病変におけるYKL-40の存在は、初めて報告されており、media borders中膜境界部に存在するCD68+マクロファージによるYKL-40の発現が明らかとなっている Arthritis Rheum 1999;42:2624–30.
  • 著者らの先行研究ではCD206+MMP-9+マクロファージは、局所GM-CSF産生により誘導され、主に内側破壊部位付近の中膜とその境界部に存在することを示した Clin Transl Immunology 2020;27;9:e1164.
  • 局所的なGMCSF産生がこのマクロファージサブセットをYKL-40産生を誘導するに重要なのだろう
  • 現在、GM-CSF受容体拮抗薬であるmavrilimumab のGCA治療に対する有効性が評価されている(第II相試験)
  • Mavrilimumabは、YKL-40産生マクロファージサブセットを標的としている可能性が高く、さらなる検討が必要
  • YKL-40をノックダウンするとMMP-9産生が大幅に減少するというデータから、YKL-40がマクロファージによるMMP-9産生の上流シグナルの1つである可能性が高くなった
  • またMMP-9は内膜破壊だけでなくT細胞や単球の血管壁への浸潤のメディエーターとして、GCAの病態に重要な因子であるとの報告ある Circ Res 2018;31;123:700–15.
  • GCA病変部において、GM-CSFを介したCD206+マクロファージが、YKL-40を高いlevelsで産出し、autocrineあるいはparacrine manner様式でMMP-9発現を促進していることが示唆された
  • 今回の研究は、YKL-40の受容体であるIL-13Rα2がGCA病変部にて高いレベルで発現していることを証明した最初の研究
  • YKL-40とIL-13Rα2との相互作用が、MMP-9の発現に必要なAkt経路とERK経路を活性化することが示されている J Leukoc Biol 2011;90:761–9.
  • また今回の結果から、YKL-40がGCAにおけるneovascularization新生血管形成の重要なメディエーターであり、炎症反応を促進するプロセスである可能性を示唆している
  • GCA患者の炎症動脈では、血管新生が拡大し、中膜と内膜に及んでいる
  • YKL-40はマクロファージが関与する疾患における有望な治療ターゲットとなり得るだろう
  • YKL-40を標的とする中和抗体は、血管新生と腫瘍の進行を抑制する可能性がある
  • GCやtocilizumabは、GCA患者の症状を一時的に抑制することができるかもしれないが、無症状の血管壁炎症は持続し、最終的にかなりの患者さんで再発することが、新しいエビデンスとして示されている Rheumatology (Oxford) 2018;57:982–6.
  • GC治療にもかかわらずYKL-40が高値であることは以前の研究で示されている Rheumatology (Oxford) 2019;58:1383–92.
  • YKL-40の発現がIL-6、GM-CS、IFNγなど多くのサイトカインから作用を受けているのかもしれない Respir Res 2015;16:154.
  • L-6のシグナル伝達は、トシリズマブによる治療で特異的に、またGC治療で部分的に抑制されているのだろうが、
  • GM-CSFとIFNγの産生は、両方の薬剤に対して耐性がある可能性がある Ann Rheum Dis 2020;79:576.
  • Kunzらによる研究ではマクロファージのYKL-40発現に対するGC処理の影響はほとんどないことが明らかにされている  Respir Res 2015;16:154.
  • 以上のことから血管壁にはYKL-40を介した病態が残存していることが示唆される