論文の一部を抜粋してまとめ
Autoimmune manifestations in viral hepatitis. Semin Immunopathol. 2013 Jan;35(1):73-85.
【Autoantibodies】
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慢性のHCV感染ではひNon-organ-specific autoantibodies非臓器特異的な自己抗体が常に報告されており、有病率は最大70%
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頻度の高い自己抗体の順に
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anti-smooth muscle antibody (SMA; up to 66 %),
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anti-nuclear antibody (ANA; up to 41 %)
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anti-liver kidney microsome type 1 (anti-LKM1; 1–11 %) antibody
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非臓器特異的自己抗体が発現しやすいことと、自己免疫性肝炎(AIH)を発症しやすい遺伝的背景とは関係がある
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HLA A1-B8-DRB1*0301およびDRB1* 0401はANAの発症に関連あり
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HLA-DRB1*0701およびDQB1*0201は抗LKM1陰性HCV患者よりも抗LKM1陽性患者で著しく高い頻度で認められる
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【Immune-complex-mediated pathology】
Cryoglobulinaemia クリオグロブリン血症
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クリオグロブリンは、37℃以下で不溶化し、37℃以上で再び溶解する免疫グロブリン(Ig)
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クリオグロブリンの3つのタイプ
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I型:モノクローナルIg(または軽鎖)
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II型:ポリクローナルIgGとIgG(リウマトイド因子、RF)に対する反応性を有するモノクローナルIgM
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III型:IgGとIgMがともにポリクローナルで、IgMにはまだRF活性が残っている
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II型とIII型は混合型クリオグロブリン血症と定義され、HCV感染と関連している
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HCV感染者における有病率は19~65% Dig Liver Dis 39(1):2–17.
クリオグロブリン血症の症状
- purpura, weakness and arthralgia (Meltzer’s triad)が有名
- しかし症状がないときも多く、通常cryocritクリオクリットが高値のときのみ症状生じる
- その他の症状には、レイノー現象、末梢神経障害、シッカ症候群、膜性増殖性糸球体腎炎
- 慢性のHCV既感染のクリオグロブリン血症患者では、クリオクリットにHCV RNAと抗HCV抗体が検出される N Engl J Med 327(21):1521–1522.
- II型クリオグロブリン血症患者の皮膚血管炎性病変にHCVが証明されている Arthritis Rheum 40(11):2007–2015.
なぜ一部の慢性HCV感染者だけがクリオグロブリン血症を発症するのか?
- ウイルス量の桁が違う
- 宿主の抗ウイルス免疫応答が活発であったりなかったり、
- ウイルスの成分と異なる・または親和性がことなる自己抗体があること
- ウイルスまたは宿主に関する遺伝的因子も関与
- 抗ウイルス治療によるHCVの除去はクリオグロブリン血症の完全な消失につながる
- これはその原因におけるウイルスの直接的な役割があることでもある J Hepatol 42(5):632–638.
- つまり、混合型クリオグロブリン血症の治療法として選択される
- もしウイルス治療に反応しない患者、または重度の血管炎および/もしくは皮膚潰瘍、末梢神経障害または糸球体腎炎を患う患者では、抗CD20モノクローナル抗体などの免疫抑制治療が用いられる
Glomerulonephritis 糸球体腎炎
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糸球体腎炎は、糸球体に免疫グロブリン補体成分や抗原を含む免疫沈着物が検出される、免疫複合体関連疾患の典型的な例である
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糸球体に沈着した免疫複合体にHCVが含まれている Hepatology 25 (5):1237–1244
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αインターフェロン治療により腎臓と肝臓の疾患が同時に改善する
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HCVと膜性増殖性糸球体腎炎との関連は、一般に混合型クリオグロブリン血症と関連しているとの報告がある Dig Liver Dis 32(8):708–715
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HCV感染症の流行地では、糸球体腎炎とクリオグロブリン血症の患者におけるHCV陽性の割合は、85〜100%と高い Kidney Int 46(6):1700–1704
Sjögren’s syndrome シェーグレン症候群
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この自己免疫疾患には、ウイルス性の病因が繰り返し示唆されている。
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主にacrimal and salivary glands涙腺と唾液腺に影響を与え、いわゆるシッカ症候群を引き起こす
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以下の症状はHCV感染患者において繰り返し報告されており、50%以上の頻度で認められる
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xerostomia 口腔乾燥,
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sialadenitis 唾液腺炎,
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abnormal salivary flow rates 唾液量異常
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abnormal Schirmer test
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しかし、シェーグレン症候群の古典的な血清検査ではRo/SSAまたはLa/SSBに対する抗体は1%しか認められない Isr Med Assoc J 4(12):1101–1105
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唾液中および感染した患者の単核細胞中にHCVが存在することは、シェーグレン症候群におけるHCVの病原的役割の可能性を示唆する所見である
【Mechanisms】
Regulatory T cells
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免疫反応を抑制し、自己免疫発生を防ぐ働きがある
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主なサブセットとしては、CD25+インターロイキン2(IL2)受容体のα鎖+FOXP3の高レベルの構成的発現によって識別されるCD4 + T細胞(CD4+ CD25+ Treg) が有名[115, 116]である。
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Tregは、自己免疫疾患の一部でにおいて、その数や機能が欠損している J Hepatol 41(1):31–37.
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一方、その数は、感染及び新生物において増加する Int J Cancer 129(6):1373–1381.
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慢性HCV感染症患者や急性感染症から慢性化した患者では、Tregの数が増加している J Virol 79(12):7852–7859.
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その増加の目的は、おそらく感染と戦うエフェクター細胞の作用による組織損傷を防ぐこと
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しかしながら、ウイルスの効率的なクリアランスを妨げることにもなりかねない。
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一方で、慢性的にHCVに感染し、症状のある混合型クリオグロブリン血症を発症した患者では、末梢のTreg数が減少している Blood 103(9):3428–3430.
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免疫調節機能が失われていることで、immunopathological manifestations免疫病理学的症状出現しやすい
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HBV感染症でもHCVと同様、Tregが慢性感染症患者で増加することが報告されている
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まだTregの数および/または機能とHBV関連の免疫病理学的症状との直接的な関連は報告されていない
B lymphocytes
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慢性HCV感染患者では、Bリンパ球の活性化閾値が100倍も低下している
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この活性化閾値の低下は、Bリンパ球の表面にある多くの分子にHCVが結合することに起因している
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HCVはB細胞の抗原受容体によって認識される
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その後HCV envelope 2 proteinHCVエンベロープ2タンパク質 は tetraspanin CD81テトラスパニンCD81と結合する Nat Rev Immunol 5(2):136–148.
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補体活性化後に、補体断片C3dによって被覆されたHCVは、C3d受容体のCD21と結合し、CD19と共刺激複合体として結合する Annu Rev Immunol 18:393–422.
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さらに、B細胞の増殖をサポートするTNF cytokine familyであるB lymphocyte activating factorB(BAFF)は、HCV感染で増加する Rheumatology (Oxford) 46(1):65–69.
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BAFFはCD19と結合し、B細胞活性化の閾値をさらに下げ、HCV感染におけるその上昇は、自己免疫の臨床的および 検査的特徴と関連している J Autoimmun 27(2):134–139.
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Bリンパ球の表面上の共刺激分子との結合による非抗原特異的かつポリクローナルな活性化が、HCV感染を特徴づける肝外症状の原因である自己抗体やクリオグロブリン産生している可能性がある
- B cell clonal expansion Type II mixed cryoglobulinaemia syndrome,B細胞クローン拡大II型混合クリオグロブリン血症症候群
- これは慢性HCV感染症によく見られるもので、B細胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の前駆症状と考えられている
- II型クリオグロブリン血症の臨床的・検査的特徴を有する被験者の肝臓と骨髄で、意義不明の単クローン性リンパ増殖性浸潤の所見がが報告されている J Immunol 167(1):21–29
- 慢性HBV感染がBリンパ球に及ぼす影響についてはほとんど知られていないが、HBVがこれらの細胞に存在するという証拠はある J Immunol 167(1):21–29
- HBV感染とB細胞性非ホジキンリンパ腫の間の病原性の可能性が報告されており、感染者は対照者に比べてほぼ3倍非ホジキンリンパ腫を発症しやすい Hepatology 46(1):107–112.
CD81 and hepatitis C virus (HCV) infection. Viruses. 2014 Feb 6;6(2):535-72.
C型肝炎ウイルス(HCV)のライフサイクルにおけるCD81の関与
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HCVは肝細胞への感染を開始するにあたり、細胞表面でグリコサミノグリカン(GAG)などの非特異的因子と相互作用する
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ウイルス粒子はリポタンパク質と結合することで、Low Density Lipoprotein-Receptor (LDL-R)低密度リポタンパク質受容体がエントリー時のこの開始段階での役割を果たしているようである
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次に、ウイルス粒子は、CD81を含む特定の侵入因子と結合する。
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CD81はentry factor complexの中心的なポジションであり、他の因子との相互作用がある
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HCVはまずscavenger receptor class B type I (SR-BI)スカベンジャー受容体クラスBタイプIと相互作用する
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そして今度は、おそらくウイルスエンベロープタンパク質とCD81の結合が促進される
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CD81とtight junction protein claudin-1 (CLDN1)は自然にHCVの侵入に必須な複合体を形成し、EGFRやGTPase HRasによって調整をうけているようである
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CD81/CLDN1複合体と相互作用した後は、HCVはもう一つのタイトジャンクションタンパク質であるoccludin(OCLN)オクルーディンと相互作用する。
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以下の分子はHCVの侵入に関与している事が報告されているが、機序はまだ不明
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transferrin receptor (TfR) トランスフェリン受容体
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tetraspanin CD63 テトラスパニンCD63
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the Niemann-Pick C1-like1 (NPC1L1) cholesterol transporter bile canaliculi(BC)毛細胆管に主に局在しているコレステロール輸送体
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図の赤い→(ギザギザ)で描いているCD81の膜拡散も、HCVの侵入を制御する重要な要素
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HCVはclathrin-mediated endocytosisクラスリン介在性のエンドサイトーシスにより、おそらくCD81/CLDN1複合体やEGFRと結合してインターナリゼーションされる
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インターナリゼーションはSR-BIの脂質移動特性によって促進されるようである
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低pHで初期エンドソームの膜と融合した後、ウイルスゲノムは細胞質へ放出される
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次に、翻訳とポリタンパク質のプロセッシングが行われ、ウイルスRNAが複製される
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CD81は複製の過程に関与し、逆にRNA複製がCD81の発現量を調節する可能性があることが示されている
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サイクルの後期には、新しいビリオンが、he Very Low Density Lipoproteins (VLDL) biogenesis pathway超低密度リポタンパク質生合成経路と密接に関連したER関連コンパートメントにおいて組み立てられ、この過程はlipid droplets (LD)脂質滴の近くで起こるようである
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放出されたウイルスは、cell-free transmissionによって新しい細胞に感染することができる
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CD81に依存しない経路とCD81に依存する経路が報告されているが、まだ議論のあるところである
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ごく最近、活性化マクロファージがTNFαを産生し、CD81のdiffusion coefficient拡散係数を増加させ、OCLNを基底膜に再局在化させ、それによってHCVの侵入を増長させていることが示された