Journal Club 雑記

RA患者のリンパ増殖性疾患(LPD)に関する大規模レトロスペクティブコホート

Association of methotrexate use and lymphoproliferative disorder in patients with rheumatoid arthritis: Results from a Japanese multi-institutional retrospective study. MODERN RHEUMATOLOGY 2022, VOL. 32, NO. 1, 16–23

 

【Introduction】

  • 関節リウマチ(RA)の患者数は全世界で約2,370万人 The Global Burden of Disease, 2004 Update.
  • Lymphoproliferative disorder (LPD)リンパ増殖性疾患は、良性で自己限定的な増殖のものから様々なリンパ腫まで、コントロールできないリンパ球の産出を特徴とし、monoclonal lymphocytosis単クローン性リンパ球症, lymphadenopathyリンパ節腫脹, bone marrow infiltration骨髄浸潤, and extranodal lesions節外病変 を引き起こす
  • Another iatrogenic immunodeficiency-associated LPD(OIIA-LPD)とはLPDの一形態で、免疫抑制剤による治療を受けた患者に発症し、それは自己免疫疾患に対するメトトレキサート(MTX)やTNF阻害薬によっておこる International Agency for Research on Cancer; 2017.
  • RA患者におけるLPDの頻度は、一般集団の2.0~5.5倍 Arthritis Res Ther. 2008;10(2):R45.
  • MTX内服によるOIIA-LPD患者の50%は内服中止によりspontaneous regression(SR) 自然退縮するが、残りの50%は化学療法が必要とするか、死亡する Mod Rheumatol. 2018;28(1):1–8.
  • 従って、RA患者におけるLPDのリスク・予後・死亡率を正確に評価することは重要
  • 日本人一般集団と比べて、日本人RA患者におけるリンパ腫の標準化罹患比(SIR)は3~6(1より大きいと比較集団よりもがん罹患が多い)Rheumatol Int. 2011;31(11):1487–92.
  • これは欧米諸国より多い Arthritis Rheumatol. 2017; 69(4):700–8.
  • 遺伝的素因以外のRA-LPDのリスク因子として、先行研究では以下の通り J Rheumatol. 2015;42(4):564–71. Eur J Haematol. 2013;91(1):20–8.
    • old age 高齢
    • positivity for Epstein–Barr-encoded small RNA (EBER) EBERが陽性
    • MTX use MTX使用
    • high doses of MTX MTXの高用量投与

本研究の目的

  • 大規模な疫学研究として日本人RA患者のLPDの疫学的・臨床的特徴および危険因子を検討すること

【Materials and methods】

  • multi-institutional retrospective cohort studyでJCR日本リウマチ学会主導
  • inclusion criteria
    • (1) 20歳以上の日本人Japanese patients who were aged ≧ 20 years
    • (2) 1987年のACRまたは 2010年ACR/EULARのRA分類基準を満たす
    • (3) 2011 年4月1日から7月31日までに少なくとも一度はJCRのリウマチ研修プログラムに登録している参加病院の日本人患者であること
  • 各病院からの本調査への登録患者数最大300名を3年間フォローアップした
  • 観察期間中に下記に表記するがLPDの定義を満たした患者については、LPD発症から最長5年間追跡調査
  • 3年間の観察期間の終了、死亡、フォロー不可のいずれか早い時点で中止
  • LPDの定義
    • 病理でリンパ腫の診断
    • 病理でリンパ腫以外のLPD
    • 病理診断のないclinicalなLPD(臨床症状、検査値、画像所見より主治医が判断)
データの収集
  • データはResearch Electronic Data Capture (REDCap) systemで収集 Spinal Cord. 2018;56(7):625.
  • REDCapは、2004年にVanderbilt Universityで開発された安全なデータ収集・入力ツール
  • ソフトウェアの専門的な知識がなくとも、electronic case reportのformsをデザインしたりチェックプログラムの編集ができる
  • このアプリケーションは、世界135カ国で約4000施設で臨床研究に利用されている About REDCap.
統計解析
  • LPD患者の割合・病理診断つきリンパ腫のASR・SIRを解析した
  • 解析方法については割愛する

【Result】

患者のベースライン特性
LPDの発生状況
  • 9815例中68例が上記に定義したLPDを発症し、54名がlymphomaの診断。うち48名がリンパ腫の病理診断を受けている
  • ASR: 102.13 [71.3–133.0] (102.05 [43.1-161.0] in male, 98.1 [63.6-132.5] in female) /10万患者あたり
  • SIR: 5.99 [4.30–7.68] (5.36 [2.33-8.39] in male, 7.11 [4.76-9.46] in female) 日本人一般集団と比較して
  • 5年間の観察期間中にLPDの再発は2例
LPD患者の人口統計学的・臨床的特徴と予後
節性病変と節外病変を有する患者の割合 及び 部位特異的な節外病変を有する患者数
  • nodal lesions(節性病変)リンパ液、胸腺、脾臓、扁桃など
  • extranodal lesions(節外臓器)胃、腸管、甲状腺、骨髄、肺、肝臓、皮膚など
  • 5年間の観察期間終了時点で、LPD患者の内訳は
    • 66%が生存
    • 24%が死亡
    • 10%がフォロー不可
  • 死亡した16名の患者のうち死因は
    • リンパ腫13名(81%)
    • 心疾患2名(13%)
    • 肺疾患1名(6%)
LPDの関連因子
  • ベースライン時の共変量を調整した結果を以下に示す
【Discussion】
  • RA患者のリンパ腫のSIRに関して、日本では3つの大規模コホートがある
    • 6.1 (3.7–9.4), IORRA J Rheumatol. 2015;42(4):564–71.
    • 3.4 (2.6–4.3), Ninja Mod Rheumatol. 2016;26(5):642–50.
    • 6.2 (4.8–7.6), SECURE  Rheumatol Int. 2011;31(11):1487–92.
  • 本研究でのSIRは6.0(4.3-7.7)で、IORRAやSECUREの結果と同等だが、RAに対する薬剤選択にはばらつきがある
  • MTXの治療を受けた患者の割合は IORRA試験とほぼ同じ
  • MTXの投与量の中央値は Ninja試験と同様だが、本研究ではMTXを使用する患者の割合が高い
  • SECURE試験では全例が少なくとも1種類のbDMARDを投与していた
  • 地理的にアジア人はリンパ腫のSIRが高く、genetic risk variant が原因の一つだろう
    • 山川らは、HLA-B15:11とEBER-positive LPDとの関連について報告した J Rheumatol. 2014;41(2):293–9.
      • このHLA-B15:11対立遺伝子が、RA患者がEpstein-Barrウイルス(EBV)感染を起こしやすくLPD発症のリスクを高める
      • 実際にこの遺伝子の頻度はthe Asian or Pacific Islander (API)で高く、特に韓国・中国・日本ではより高い
  • 本研究の結果、RA – LPD の独立したリスク因子は 高齢・MTXの使用 である
  • bDMARDsの使用は有意なリスク因子ではなさそう
  • 炎症があることはLPDのリスク因子のようだが、日本人のコホート研究では疾患活動性が低くともリンパ腫の年間SIRは変わらない結果であった J Rheumatol. 2015;42(4):564–71.
  • primary Sjogren’s syndrome 原発性シェーグレン症候群の患者におけるB細胞リンパ腫のリスクは、一般集団の15~20倍であったが、本研究ではprimary SSはLPDの有意なリスク因子とはならなかった  N Engl J Med. 2018;378(10):931–9.
  • 一応、LPD患者の28.6%および75%がSSであった研究がある Arthritis Care Res. 2014;66(9):1302–9. Mod Rheumatol. 2018;28(4):621–5.
limitation
  • selection bias:参加病院の患者は、一般的なRA患者に比べて、疾患活動性が高く治療に難渋する傾向があり、LPDの発症率が高くなる可能性がある
  • LPDの患者数が少なく、病理診断で層別した予後やLPD発症後のRAに対する治療などの詳細な分析ができていない
  • データベースとJapanese national cancer registryとの関連付けが不可能であったため、LPDの発生率が過小評価または過大評価される可能性がある
  • 本試験登録の2ヶ月前の2011年2月に日本におけるRAに対するMTXの最大承認用量が8mg/週から16mg/週に引き上げられた。ゆえに、本患者のMTXは海外よりも少ないdoseで投与されている
strength
  • 日本のRA-LPD研究で最大規模でフォローも長かった
  • 57施設から9815名のRA患者を連続して登録したため、施設バイアスを軽減し一般化可能。さらに発生率の低い事象を検出するのに適切