Gastric antral vascular ectasia in systemic sclerosis: a study of its epidemiology, disease characteristics and impact on survival. Arthritis Res Ther. 2022 May 10;24(1):103.
【Key messages】
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Gastric antral vascular ectasia(GAVE)胃前庭部毛細血管拡張症は疫学的に少なく見積もられており、また全身性強皮症の臨床症状としては過小評価されている。
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リスクの高いGAVE表現型を特定しておくことでより診断と治療につながることになるため、臨床上重要である
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6ヶ月毎に行う鉄検査は、GAVEの簡便で費用対効果の高いスクリーニング手段である
【Conclusions】
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GAVEは、十分に認識されていないSScの症状であり、診断および治療は容易で、著者らのSScコホートにおける有病率は10.6%であった
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GAVEの症状や合併症に関する医師の認識を高めることは、この疾患の存在に対する認識を高める上で重要なステップである
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さらに、本研究のようにリスクの高いSScの表現型を特定することでGAVE関連の罹患率を減らし、またhealth-related quality of life(HRQoL)を改善することを目的として、これらの高リスクの表現型をターゲットとしたスクリーニングの利点についての重要な問題を提起することになる
【Introduction】
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オーストラリアは、SScの有病率が高い国の一つであり、SSc は血管障害と線維化を特徴とする自己免疫性結合組織病である Intern Med J. 2013;43:4.
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SScは、リウマチ性疾患の中でほぼ間違いなく最も破壊的であり、多臓器に回復不能な損傷を与え、生命予後を20年短くすると言われている Intern Med J. 2013;43:4.
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SScの臨床症状は、多臓器にわたる多様な血管症状であり、心肺および腎臓病変が高い死亡率に寄与し、gastrointestinal tract (GIT)消化管の関与が高い罹患率と悪い健康関連QOL(HRQoL)につながる Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2016;13(8):461–72. Clin Exp Rheumatol. 2018;36 Suppl 113(4):53–60.
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肺動脈性肺高血圧症(PAH)やSSc腎クリーゼ(SRC)などのSSc関連の血管症状に関する広範な研究が行われている
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一方で、vascular ectasia (GAVE)胃前庭血管拡張症にはほとんど注意が向けられていない
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GAVEは十分に認識されていないが治療可能なSScの血管および胃の症状である
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1953年に初めて、GAVEは、Riederらによって、慢性鉄欠乏性貧血を呈する患者の“erosive type of gastritis with marked veno-capilliary ectasia” 顕著な静脈-毛細血管拡張を伴うびらん性胃炎 として内視鏡的に記述された Gastroenterology. 1953;24(1):118–23.
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1984年にはより正確に“longitudinal antral folds … converging on the pylorus, containing visible columns of tortuous red ectatic vessels” Gastroenterology. 1984;87(5):1165–70.と表現され、現在ではGAVEの診断に不可欠な特徴と考えられている J Gastrointest Surg. 2003;7(5):652–61.
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GAVEの正確な病因は、他の多くのSSc症状と同様に未だに明らかになっていない J Gastrointest Surg. 2003;7(5):652–61.
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GAVEで典型的に見られる組織学的特徴には以下のようなものがある Am J Gastroenterol. 2001;96(1):77–83.
- 毛細血管の拡張・血栓症を伴う粘膜の過形成
- 粘膜固有層の線維筋の過形成
- 粘膜下層の異常血管がある
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これらの内視鏡的外観はthe stripes on a watermelonスイカの縞模様に似ているため、“watermelon stomach”と呼ばれている Gut. 2001;49(6):866–72.
GAVEの内視鏡的外観
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これらの組織学的変化は、PAHやSRCなどの他のSSc血管系症状で見られる炎症、増殖、血栓形成の組織学的変化とあまり似ていないため、GAVEは純粋により血管系症状であり、あまりSScの特異的な胃症状ではないと推測される Int. J Rheumatol. 2010;2010:543704.
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GAVEは、まれな症例ではあるが、すべてのnon-variceal upper GIT bleeding非静脈瘤の上部消化管出血の4%を占めており(急性発症の重症消化管出血or潜血陽性の消化管出血のどちらかを伴う)、これらはいずれも重大な病的状態と死亡を伴うことがある Clin Med Res. 2013;11(2):80–5.
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GAVEはのほとんどすべての症例においては、背景に慢性基礎疾患を伴う Clin Med Res. 2013;11(2):80–5.
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GAVE患者の30%ではcirrhosis of the liver肝硬変が併存している一方で、非肝硬変のGAVE患者では、60%以上は基礎疾患として自己免疫性結合組織疾患、特にSScを有する J Clin Gastroenterol. 1992;15(3):256–63.
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このように自己免疫疾患とGAVEの間には強い関連があるにもかかわらず、SScにおけるこの症状の疫学およびaetiopathogenesis病因論についてはほとんど知られていない
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これまでの研究ではGAVEの様々な有病率が示されてきたが、そのレンジは内視鏡検査の適応によって変化する
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ブラジルのSScコホートでは、消化管出血、貧血、消化管運動不全の検査のため、上部消化管内視鏡検査を受けた場合の6%(SScコホート=664、GAVE診断n=4)J Clin Rheumatol. 2020;26(2):79–81.
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EUSTARネットワーク(欧州リウマチ強皮症試験研究連盟)では1%(SScコホートn=4090、GAVE診断n=49) J Rheumatol. 2014;41(1):99–105.
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症候性貧血を呈したSSc患者(n = 264、GAVE診断n = 15)では5.7% Aliment Pharmacol Ther. 2008;28(4):412–21.
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強皮症の一部として別の目的で内視鏡検査を受けた無症状の早期びまん性SSc(dcSSc)患者では22.5% Cyclophosphamide Or Transplant (SCOT) trial (SSc cohort n = 103, GAVE diagnosed n = 23) J Rheumatol. 2013;40(4):455–60.
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GAVEの実際の有病率は不明であるが、無症状のSSc患者に対してルーチンで内視鏡検査を行っていないため、過小評価されている傾向がある
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GAVEはSScで発生する頻度が高いことが認識されているが、その疾患との関連や生存への影響についてもほとんど知られていない
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先行研究ではレトロスペクティブかつ、ほとんどが小規模なSSc患者コホートで施行されており、疾患との関連や転帰については、その結果は矛盾するものであった
本研究の目的
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オーストラリアの大規模な前向きSScコホートにおけるGAVEの疫学を調査し、その疾患との関連および生存への影響を明らかにすること
【Methods】
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Australian Scleroderma Cohort Study(ASCS)に前向きに登録された継続的にフォローしているSSc患者を対象とした
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ASCSとはSScの臨床的に重要な転帰の危険因子と予後因子に関する多施設共同研究である
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ASCSデータベースは包括的な人工統計、疾患関連のレータを年単位で収集した
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すべての患者から書面によるインフォームドコンセントを取得し、すべての参加病院から倫理的承認を得た
Inclusion and exclusion criteria 対象および除外基準
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2008年1月(コホート開始)以降にASCSに登録されたすべての成人(18歳以上)SSc患者を対象とした
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いずれの患者もAmerican College of Rheumatology / European League Against RheumatismのSScの分類基準を満たした Ann Rheum Dis. 2013;72(11):1747–55.
ASCS clinical data ASCSの臨床データ
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SSc発症のタイミング:レイノー現象以外のSSc疾患臨床症状が最初に出現した時点と定義
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臨床症状・自己抗体の有無:SSc診断時から報告されたことがある場合に存在すると定義
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上部消化管内視鏡検査の適応は以下の通り
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原因不明の鉄欠乏性貧血(Hb<120 g/dL)
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潜血陽性または急性消化管出血
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核移行試験での胃排出遅延または治療に反応しないgastroesophageal reflux disease (GORD) 胃食道逆流症
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嚥下困難または食道狭窄の疑い
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潜血陽性のGI bleeding:鉄欠乏性貧血および/または目に見えるGI出血がないにもかかわらず便潜血検査が陽性であることと定義
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治療反応性:高用量のPPI治療にもかかわらずGORD症状が持続する場合は、治療に反応しないものと定義
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GAVE (“watermelon stomach”):粗い平行ヒダと拡張した血管が、幽門から胃の前庭に収束する特徴的な内視鏡的外観 Gastroenterology. 1984;87(5):1165–70.
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Scleroderma renal crisis (SRC)強皮症腎クリーゼ:次の 3 つの基準のうちいずれか 2 つを満たす
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他の病因を伴わない新規発症の重症高血圧(収縮期 180mmHg 以上および/または 100mmHg 以上)
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microangiopathic haemolytic anaemia(MHA)微小血管症性溶血性貧血
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クレアチニンの上昇
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Digital ulcer (DU)趾潰瘍:視覚的に識別可能な深さと趾の上皮被覆連続性の喪失(担当医によって臨床的に定義)Rheum Dis Clin N Am. 2015;41(3):419–38.
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Interstitial lung disease (ILD)間質性肺疾患:HRCTで撮像した肺で、徴的な線維性変化があるか Ann Rheum Dis. 2013;72(11):1747–55.
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肺動脈性肺高血圧症(PAH):国際的な基準に従って右心カテーテル検査で診断 Eur Respir J. 2019;53(1):1801913.
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Medication use data:主治医の判断で処方された薬の使用データ(GAVE診断時およびフォローアップ期間中)
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health-related quality of life data (HRQoL):Medical Outcome Short Form-36 (SF-36) (SSc における HRQoL 測定用の有効な尺度 [22]) を用いて測定した健康関連 QOL データ(GAVE診断時およびフォローアップ期間中)
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50点以下は、背景集団よりHRQoLが悪いことを示し、1標準偏差を10点で表した
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2021年6月に患者のステータス(生死)は打ち切り
Statistical analysis 統計解析
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正規分布の場合:平均値±標準偏差(SD)
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非正規分布の連続変数:中央値(25-75位)、カテゴリー変数の場合は数値(%)
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頻度の差:カイ二乗およびフィッシャーの正確確率検定
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GAVEの臨床症状および血清学的パラメータとの関連:単変量および多変量ロジスティック回帰
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GAVEの有無での患者の生存率:Kaplan-Meier(K-M)生存曲線
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HRQoLの推定:登録から最終フォローアップまでの患者のPCSおよびMCS中央値スコア
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※使用ソフトウェア:STATA 15.1(StataCorp LP, College Station, TX, USA)
【Results】
Patient characteristics 患者の特徴
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本研究コホートでは2039人のSSc患者を解析した
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216人(10.6%)が追跡期間中央値4.3年(1.7-8.4年)の間にGAVEと診断
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GAVEの既往有りの患者は、既往無しの患者に比べてANA陽性率が高かった(98.6% vs 94.9%, p = 0.019)
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speckledパターンが多く、homogenousパターンは少ない
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(GAVE既往有 speckled 39.7% vs GAVE既往有 homogenous 29.3, p = 0.003 )(GAVE既往無 speckled 39.6 vs GAVE既往無 homogenous 322.2, p < 0.001)
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antitopoisomerase-1 (Scl-70)抗トポイソメラーゼ-1 抗体陰性 (4.0% vs 16.1%, p < 0.001)
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U1 small nuclear ribonucleoprotein (U1RNP)U1小核リボ核タンパク質抗体 陰性(3.5% vs 7.4%, p = 0.041)
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Scl/ PM antibodies(0.0% vs 2.0%, p = 0.042) Scl/ PM抗体陰性
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anti-RNA polymerase (RNAP) III antibody 抗RNA polymerase III抗体陽性 (24.9% vs 8.3%, p < 0.001)
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GAVEの既往有りの患者は、既往無しの患者に比べて貧血既往(38.0% vs 15.2%, p < 0.001)および外来診察の間のヘモグロビンが正常値を大きく下回った(貧血は10g/L以上と定義)
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炎症マーカー(CRP、ESR)を含む急性期反応物質や血小板数、アルブミン値には、これらのグループ間での差はなし
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臨床症状に関して、GAVEの既往のあるSSc患者はGAVEの既往ない患者と比較して、以下のようなのSSc血管症状を呈する確率が高かった
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telangiectasia毛細血管拡張症(93.0 vs 85.1%, p = 0.002)
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calcinosis石灰化 (48.8% vs 37.6%, p < 0.001)
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SRC (8.3% vs 3.1%, p < 0.001)
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digital ulcerations 趾潰瘍(54.2% vs 41.0%, p < 0.001)
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pits 孔 (67.0% vs 58.0%, p = 0.012)
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amputations 切断 (19.1% vs 12.4%, p = 0.006 respectively)
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興味深いことに、GAVEの存在とSScに関連する心肺症状、すなわちPAHおよびILDとの間に関連性は認められなかった
GAVE患者においてより頻繁に発生したその他の臨床症状
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GIT病変
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GORD(100% vs 92.4%, p < 0.001)
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食道(49.5% vs 38.7%, p = 0.002)
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腸の運動障害(38.4% vs 23.4%, p < 0.001)
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虚血性心疾患(IHD)(17.8% vs 10.0%, p = 0.001)
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末梢血管疾患(PVD)(11.3% vs 6.9%, p = 0.044)
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GAVEの存在は、全体の悪性腫瘍の発生率の増加傾向と関連を認めたが、有意差はなかった(26.4% vs 20.7%, p = 0.055)
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GAVEの既往のある患者は、GAVEの既往のない患者と比較して、試験登録時からGAVE診断後の入院回数が多かった (63.4% vs 51.6%, p = 0.001)
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研究打ち切りの時点で、GAVE既往のあるSSc患者は、GAVE既往のない患者よりも生存率が低かった (79.2% vs 84.4%, p = 0.048)
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GAVE既往のあるSSc患者は、GAVE既往のない患者よりもHRQoLの面でSF-36のMCSの有意な低下と関連しており、これは最小重要差よりも2倍高い差であった (39.7 (29.6–49.2) vs 43.6 (33.5–52.5), p = 0.002 J Rheumatol. 2010;37(3):591–8.
GAVE患者の特性
本研究の結果
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GAVEを発症したSSc患者の92.3%が、SScの診断後にGAVEと診断
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7.7%の患者では、GAVEがSScの最初の臨床症状
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全体としてGAVE患者は主に白人(91.5%)女性(87.0%)で、限定型SSc疾患サブタイプ(lcSSc)(64.7%)
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GAVE診断時の年齢中央値は55.9歳、SSc疾患期間は4年であった
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GAVEはSScの疾患経過の最初の5年以内と早期に発生し、dcSSc患者はlcSScと比較して、より早期にGAVEと診断される傾向があった (3.1 vs 5.3 years, p = 0.003)
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GAVE患者の98.6%は抗核抗体(ANA)陽性で、以下のパターン分類であった
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centromere (49.3%)
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speckled (39.7%)
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nucleolar (23.5%)
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homogenous (9.6%)
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positive for RNAP III (32.9%)
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negative for Scl-70(96.0%);U1RNP(96.5% ); PM/Scl (100% )
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GAVE診断時には以下が先行していた
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SSc患者の34.2%が急性ヘモグロビン(Hb)10g/Lの低下
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48%が息切れ感の増加
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42.3%がRFTでdiffusing capacity of carbon dioxide(DLCO)の低下
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GAVEの治療に関しては、以下のとおり
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プロトンポンプ阻害薬投与:95.8%
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ヒスタミンH2受容体拮抗薬:33.8%
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内視鏡的レーザー療法:25.5%
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GAVEの有無による生存率解析
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本研究においてGAVEありの患者となしの患者の生存期間に有意差は認められなかった(p=0.39)
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追跡期間中に死亡した336人(17.9%)のSSc患者のうち、SSc発症から死亡までの期間の中央値は、GAVEありの患者で16.3年、GAVEなしの患者で14.7年だった(p = 0.409).
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GAVE診断から死亡までの期間は7.7年であった
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GAVEの有無にかかわらず、主な死因はSSc疾患の症状によるもの(61.5% and 59.3%. p = 0.78 respectively)
Determinants of GAVE (Tables 3 and 4) GAVEの決定要因
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GAVEとの関連は、GIT運動障害に加えて、dcSSc、telangiectasia, calcinosis, SRC, DU, pits and amputation の存在を含んでいる
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RNAP IIIの存在はGAVEと関連しており、一方、Scl 70とENA RNPの存在は保護的であった
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疾患サブタイプ分析におけるGAVEの決定要因
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the presence of the dcSSc (OR 1.48, p = 0.02)
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presence of DU, pits or digital amputation (OR1.46, p = 0.04)
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GIT dysmotility (OR1.57, p = 0.01)
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SRC (OR = 2.10, p = 0.02)
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自己抗体の状態によるGAVEの決定要因
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presence of RNAP III antibody (OR 3.92, p < 0.001)
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absence of Scl70 antibody (OR 0.26, p = 0.001)
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presence of GIT dysmotility (OR 1.66, p = 0.003)
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the presence of DU, pits or digital amputation (OR 1.59, p = 0.014)
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age at SSc onset (OR 1.01, p = 0.015)
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【Discussion】
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本研究は、オーストラリア最大の研究であり、またEUSTARネットワーク研究 J Rheumatol. 2014;41(1):99–105.に次いで2番目に大きな国際研究である
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その内容としては大規模なSScコホートにおけるGAVEの疫学、臨床特性、決定要因および転帰を記述したものである
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2039人のSSc患者のコホートでは、中央値4.3年の追跡期間中にSSc患者の10.6%がGAVEと診断されており、これは、文献で報告されている有病率の範囲内(0.6~22.3%)と一致する J Rheumatol. 2013;40(4):455–60.
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文献と一致して、本研究におけるGAVEを認めるSSc患者は、SSc疾患発症時に高齢であり(49.2 (40.0-58.2) vs 46.7 (35.9-56.7) 歳、p = 0.05); dcSScを持つ傾向が高く (35.3% vs 24.1%, p < 0.001) J Clin Rheumatol. 2020;26(2):79–81. ANAおよびRNAP III抗体陽性 J Rheumatol. 2014;41(1):99–105.とScl-70陰性 J Rheumatol. 2013;40(4):455–60.がより高かった
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以前報告したように Aliment Pharmacol Ther. 2008;28(4):412–21.、私たちのコホートにおけるGAVEを持つ人々は毛細血管拡張症やSRCなどのSSc血管症状を示す傾向がより高く、また、PAHとの関連性を高めることはなかった
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また、本研究ではGAVEの存在と石灰化との関連も示した
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石灰沈着がSScの血管症状であるかどうかは議論の余地がある
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SScにおける石灰沈着の病因は未だ不明であるが、以下のメカニズムを支持する文献もある Curr Opin Rheumatol. 2018;30(6):554–61.
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局所的な外傷
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慢性炎症
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血管の低酸素症
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dysregulation of bone matrix proteins骨基質タンパク質の調節異常
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EUSTAR研究とは反対に著者らの研究でGAVEを認める患者は、GAVEを認めない患者と比較して、以下の症状をもつ傾向がより高かった
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GORD
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GIT dysmotility
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the presence of DU, pits and digital amputation
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GAVEが、GORDを含むGIT症状の診断が同時になされたことの関連性が高いことは、選択バイアスがあるのかもしれない
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なぜなら本研究のコホートにおけるGAVEの診断には上部消化管内視鏡検査が必要であったためである
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本研究におけるGAVEを認めるSSc患者の87%は女性(87%)で、我々のASCSコホート全体と同様の結果であり、GAVE診断時の年齢の中央値は、EUSTARコホート(それぞれ90%が女性、56歳)と同様に55.9(47.3-66.5)歳であった J Rheumatol. 2014;41(1):99–105.
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GAVE診断時のSSc罹病期間は、lcSScに比べてdcSScの方が短く(3.1 vs 4.0 years, p = 0.003)、この傾向はEUSTARコホートでも見られました、統計的に有意な差は認めなかった(13 vs 19 months, p = 0.63) J Rheumatol. 2014;41(1):99–105.
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そしてGAVEがSScの早期症状(発症から5年以内)であり、特にdcSScの患者さんにおいて顕著であることを示している
- SScコホートにおいて、疾患のサブタイプ別に分析した場合のGAVEの主な決定要因は、SRC, GIT dysmotility, DU, pits or amputations and dcSScの存在であった
- 一方SSc発症時の高齢、GIT運動障害、DU、ピットまたは切断、RNAP III陽性およびScl-70陰性の存在は、自己抗体の状態別に分析した場合のGAVEの主な決定要因であった
- GAVEはHRQoLの低下と関連しているにもかかわらず、本研究ではGAVEがあること自体だけでは生存率を低下させないことを示した
- この関連性の病態生理学的メカニズムは十分には理解されておらず、理論は小規模な研究や症例報告に基づくものである Digestion. 2008;77(2):131–7.
- SScにおけるGAVEは、胃症状か血症状か、またはその両方の組み合わせに分類される
- さらに、GAVEの組織学的特徴としては、毛細血管の拡張と血栓症を伴う粘膜過形成、固有層の線維筋過形成および粘膜下層の異常血管の存在などがある Am J Gastroenterol. 2001;96(1):77–83.
- これは毛細血管拡張、SRCおよびPAHなどの他の血管性SSc症状と同様である Arthritis Rheum. 2018;70(2):162–70.
- 本研究では、GAVEと他のSSc関連の血管症状(DU, pits, amputations, telangiectasia and SRC)との関連を示したが、我々のSScコホートまたはより広い文献 J Rheumatol. 2013;40(4):455–60.において、GAVEの存在とPAHとの関連がないように見えたのは興味深く、SScの病態生理学的メカニズムに関する著者等の比較的基本的な理解を強調するものであった
- GAVEとPAHの間のこの関係の欠如は、部分的には、GAVEの過小評価によるものである可能性があり、具体的には内視鏡検査で調べるよりも鉄や輸血で保存的に管理されている非常に状態の悪いSScPAHコホートがなされている空である
- 一般集団ではまれであると考えられているが、SScコホートにおけるGAVEの報告有病率は1~22%である Int J Rheumatol. 2015;2015:1–6.
- 本研究のSScコホートにおける有病率は10.6%で、SScにおけるGAVEの頻度が過小評価されていることを示す
- しかし、本研究では、内視鏡検査はSSc-GIT病変と一致する主観的または客観的所見があった場合にのみ実施されたことに注意しなければならない
- そうであるから、本研究のコホートにおけるGAVEの有病率は、GIT症状のない無症候性SScコホートに対して一般化できるものではなく、有病率ははるかに高くなるかもしれない
- このことは、強皮症によく表れており、Cyclophosphamide or Transplant(SCOT)試験では、GAVEの有病率が22%であることがわかっている J Rheumatol. 2013;40(4):455–60.
- この試験では消化器症状の有無にかかわらず、初期のdcSSc患者全員に内視鏡検査を実施した
- 文献に報告されているGAVEの幅広い有病率(1~22%)は、内視鏡検査の適応(無症状か消化器疾患の症状か)とより関係があるかもしれない
- GAVEが簡単かつ比較的非侵襲的に診断および治療できる数少ないSSc症状の1つで あることを考えると、おそらく、特定のリスクの高いSSc表現型におけるGAVEのスクリーニングとして、6~12ヶ月に1回の鉄分検査と鉄欠乏症の患者における上部消化管内視鏡検査を考慮すべきだろう
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本研究は、2つのリスクの高いSSc表現型があることを示しており、どちらもSSc疾患の経過の早期(SSc疾患発症から5年以内)に発生し、疾患サブタイプまたは自己抗体の状態のいずれかに基づいて定義されている
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第1の表現型は、GIT dysmotility, DU, pits or amputationsの併発とSRCを認める初期のdcSSc
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第2の表現型は、疾患サブセットにかかわらず、RNAP III陽性、Scl70陰性、GIT dysmotility, DU, pits and/ or amputationsを併発する初期のSSc患者
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また、貧血の有無にかかわらず鉄欠乏症のすべてのSSc患者を内視鏡検査を推奨するように努めるべきである
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GAVEが、本研究の7.7%におけるSScの最初の臨床症状であることを考えると、肝硬変を伴わないGAVEと診断された患者に対して、適切な病歴、診察、爪甲毛細管検査、抗核抗体を含む血清検査を行い、基礎にある自己免疫疾患を評価することの重要性に対する認識と医師の教育を強化する必要がある
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GAVEの治療に関しては、本研究のSSc患者は、専門家の推奨 に従って95.8%がPPIおよび/または33.8%がH2RAの治療を受け、内視鏡治療および手術は難治性の重症GAVE患者に対して施行された World J Gastrointestin Endosc. 2013;5(1):6–13.(The Japanese Gaste and Gave in Japan)(本研究の患者のうち、わずか1/4超(25.5%)にレーザー療法が行われた)
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ILDや進行性皮膚疾患などの他の適応症に使用された場合、GAVEへのシクロホスファミドの治療効果を示す小規模な研究およびケースシリーズにもかかわらず、我々のデータはシクロホスファミドを含む免疫抑制療法によるメリットを示さなかった Intern Med J. 2015;45(10):1077–81.
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しかし、この研究では、シクロホスファミドの治療期間、および治療効果などの正確な指標を特に言及しておらず、SSc GAVEの管理におけるシクロホスファミド療法の有益性については、結論を出すことはできない
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QOLに関して、本研究の患者では低いHRQoLの報告となったがこれは他のSSc群と一致していた Clin Exp Rheumatol. 2015;33(4 Suppl 91):S47–54.
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またGAVEを認めない群と比較してGAVEを認める群ではさらに負の影響を受けた (39.7 vs 43.6, p = 0.002)
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本研究のGAVEの存在はGIT運動障害およびGIT病変と強く関連しており、また、これらの症状それ自体がSSc関連の病的状態およびHRQoL低下の重大な要因であることが十分に認識されている
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さらに、GAVEを認める患者は、GAVEを認めない患者と比較して、追跡期間中の入院回数が有意に多く (63.4% vs 51.6%, p = 0.001) 、SSc疾患の経過が予測不可能であることが強調され、他の慢性疾患では患者が報告するHRQoLにマイナスの影響を与えることが示されている Qual Life Res. 2019;28(12):3347–54.
- さらに、GAVEを認める患者は、GAVEを認めない患者と比較して、追跡期間中の入院回数が有意に多く (63.4% vs 51.6%, p = 0.001) 、SSc疾患の経過が予測不可能であることが強調され、他の慢性疾患では患者が報告するHRQoLにマイナスの影響を与えることが示されている。ゆえに、HRQoLの改善はSScにおけるアンメットニーズの領域であり、大幅な改善を行う前に、より的を絞った理解が必要である
Strengths
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本研究は明確に定義され記録された臨床症状および生存データに加え、相当な期間にわたって前向きに追跡された特徴的なSScコホートである
Limitations
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内視鏡検査は “Methods” のセクションに記載されているように、臨床的適応によって行われたが、各内視鏡検査の正確な適応は記録されていない
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また、内視鏡検査施行の有無の患者ではなくコホート内のGAVEの有無に関するデータを収集している
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そのため、胃カメラ(あり/なし)や内視鏡検査の適応による分類は適して折らず、選択バイアスの可能性を排除することができない
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GAVEは軽度であり、臨床的に発見されないこともあるため、我々のコホートにおけるGAVEの真の有病率は過小評価される可能性がある。
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これは早期の出血を有する者を特定するための鉄レベルが利用できないためである