Journal Club 雑記

ヒドロキシクロロキン(HCQ)の糖・脂質代謝に対する影響

A favorable effect of hydroxychloroquine on glucose and lipid metabolism beyond its anti-inflammatory role. Ther Adv Endocrinol Metab . 2014 Aug;5(4):77-85.

【Keypoint】
  • hydroxychloroquine (HCQ)には、血糖降下作用・インスリン必要量減少作用があることが多くの文献で報告されている
  • そのメカニズムは未だ不明であるが、HCQがゴルジ体のPHを上昇させることで、”lysosomotropic activityリソソームトロピック活性”の作用によりインスリン分解を抑制させるという報告もある
  • HCQの脂質改善作用も報告されているが、最近のシステマティックレビューではその効果は弱いとされている

【Introduction】

  • Antimalarials抗マラリア薬であるhydroxychloroquine (HCQ)はヒドロキシクロロキンで昔から現在も使われている薬の一つ
  • 比較的安価で忍容性の高いであり関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患に有効
  • 糖尿病や脂質異常症などの心血管系リスクに対しても有効であるというエビデンスが出てきている
  • この論文の目的は糖尿病や脂質異常症に対する有効性の事例および文献検索のレビューを行う

【Case presentation】

24歳女性で既往は11才のときに診断された1型糖尿病、インスリンコントロールが難しく、23才のときにSjogren syndromeと診断され、HCQ 200 mg 1日1回の投与の治療となった。HCQ投与開始後1ヵ月以内で、血糖は改善。低血糖発作もなし。4ヶ月後にはHbA1cを目標値まで改善できた。またLDL-Cのわずかな改善も認めた。本症例は1型糖尿病患者におけるHCQ投与中に血糖コントロールの改善となった最初の症例報告である

 

【Literature search】

PubMedとGoogle scholarsを利用して2014年5月までで以下のtermsで検索
  • ‘antimalarials’, ‘chloroquine’,
  • ‘diabetes’,
  • ‘dyslipidemia’, ‘
  • hydroxychloroquine’,
  • ‘anti-inflammatory treatment’,
  • ‘cardiovascular diseases’
  • ‘hypoglycemia’ 低血糖

【抗マラリア薬とグルコース代謝への影響について】

  • 1984年の報告でchloroquine (CQ)クロロキンが、重度のインスリン抵抗性患者で、インスリン必要量を減少させた [Blazar et al. 1984]
  • 1987年の報告でCQを非インスリン依存性糖尿病患者6名への短期間投与したところ、耐糖能が有意に改善した [Smith et al. 1987]
  • 1987年の報告でHCQをinsulin か glibenclamide に追加するとHbA1cの改善およびインスリン必要量がより低下した [Quatraro et al. 1990].
  • 2002年の報告でHCQをsulfonylurea抵抗性のT2DMに投与したところ、治療開始後6ヶ月間でHbA1Cが1.02%減少した[Gerstein et al. 2002].
  • 2010年の報告でHCQを45人の糖尿病性RA患者に投与したところ、治療後12ヶ月以内にHbA1Cが0.66%減少した[Rekedal et al. 2010].
  • さまざまなレトロスペクティブコホートでHCQ投与患者ではDM発症率を低下させることが報告されている [Bili et al. 2011] [Wasko et al. 2007] [Solomon et al. 2011]
ただし低血糖を起こした報告もある
  • 1999年の報告でHCQをインスリン依存T2DM患者の多発性関節炎に対して1日400 mgの用量で開始したところ、2週間以内に重度の低血糖を来した [Shojania et al. 1999]
  • 2009年の報告でHCQをSLE及びT2DM既往の患者に1日2回200 mgの用量で開始したところ、最終的に皮下インスリン中止後に低血糖になった [Kang et al. 2009]
  • CQはその受容体へのインスリン結合を増加させ、肝インスリン代謝を変化させ、インスリン作用を増強する [Pease et al. 1985; Bevan et al. 1995]
  • HCQで処置したストレプトゾシン誘発糖尿病ラットはインスリンのクリアランスは低下した [Emami et al. 1999a, 1999b]
  • CQの長期使用はラットのインスリン分泌を促進した[Asamoah et al. 1990]
  • 肥満健康患者の研究でHCQ投与により6週間の治療がインスリン感受性の有意な改善と関連していた。さらにCRPやIL-6は変化しなかったことから、HCQは炎症の抑制というよりも、むしろインスリン代謝に直接作用する可能性がある [Mercer et al. 2012]
HCQのグルコース代謝に関するメカニズムについて
  • HCQが1型糖尿病患者の血糖コントロール改善に作用する詳細なメカニズムは不明
  • ただ、T1DMは自己免疫疾患であるため、HCQによるislet-cellに対する自己免疫の低下が根本的なメカニズムである可能性はある
  • インスリン抵抗性の改善するメカニズムは考えにくく、それはlongstanding type 1 diabetes with no insulin reserve インスリン予備能のないT1DM患者での血糖コントロール改善の研究から示唆されている [Ben-Zvi et al. 2011]

Kelleys Textbook of Rheumatology 

HCQ自体の作用機序について
  • HCQおよびCQは弱塩基性であるため、cytoplasmic membranes細胞質膜を通過でき、cytoplasmic vesicles細胞質小胞に蓄積し、小胞のpHを約4.0から6.0に上昇させて、”lysosomotropic activityリソソームトロピック活性”と呼ばれる酸依存性の細胞内機能に干渉する。そしてリソソーム膜の安定化、抗原の処理と提示の抑制、細胞媒介性細胞傷害の抑制など、いくつかの免疫調節に作用する Lupus 5(Suppl):4–10, 1996.
  • HCQとCQは、ゴルジ装置におけるインスリン分解の阻害を通じて、血漿グルコースレベルを低下させることが報告されている Lupus 11:71–81, 2002. Diabetes 33:11331136, 1984.

【抗マラリア薬と脂質代謝への影響について】

  • 1981年の報告でCQが、ラット肝細胞においてコレステロール合成を効果的に阻害する [Beynen et al. 1981]
  • 2007年の報告でCQが、LDL-C受容体の発現を増加させ、血漿中のリポタンパク質を除去して血清レベルを低下させる [Sachet et al. 2007]
  • 2009年の報告で抗マラリア薬は、血清脂質濃度に加えて、拡張期血圧を低下させた [Rho et al. 2009]
  • 1994年の報告ではリウマチ性疾患に関連する動脈硬化と冠動脈疾患のリスクを減少させると示唆されている [Petri et al. 1994]
  • ほとんどの研究でステロイド治療中の患者はCQがLDLコレステロールと総コレステロール(TC)の低下、HDLコレステロールを増加させた [Tam et al. 2000; Borba and Bonfa, 2001]
  • その効果は治療開始後3ヶ月で現れる [Rahman et al. 1999; Cairoli et al. 2012]
  • ただし、最近の報告として、ほとんどがcross sectional横断研究の9つの研究のシステマティックレビューでは、SLE患者の脂質プロファイルに対する抗マラリア薬の効果は弱かった