その他

【Kelley】ベーチェット病のまとめ

【Key points】

  • ベーチェット病(Behçet’s disease:BD)は慢性の多臓器疾患であり, 口腔および性器アフタとその他の全身症状を特徴とする.
  • 病態生理は多くの因子が関与しており, 環境要因, 感染, 免疫および遺伝といった要因がある
  • 診断にはBDの International Criteriaが用いられており, 口腔内アフタ, 性器アフタ, 眼病変および皮膚病変が重要である
  • 皮膚病変では, 病理組織学的に好中球の血管反応が認められる.
  • 治療は, 全身的な病変の程度に基づいたものであり, 生物学的製剤などtarget agentsが用いられるようになっている.
  • 予後は様々だが, 患者の多くは慢性の再発・寛解の経過をたどることが多い.

【Introduction】

  • BDは複雑で多臓器に及ぶ自己炎症性疾患である.
  • 1937 年にトルコの皮膚科医 Hulusi Behçet により報告され, recurrent oral ulcers再発性口腔内アフタ,  genital ulcers性器潰瘍, uveitisぶどう膜炎という3つの徴候を複合するような疾患が特徴的であるとされた.
  • この疾患に関するその後の研究で, BDの実態は血管・関節・消化管・神経・肺や心臓病変を伴う慢性で再発性の多臓器疾患であることが広く理解されるようになった.

【Epidemiology】

  • BD は世界中でみられる疾患であり, 日本から中東・地中海沿岸諸国までの “Silk Route”「シルクロード」に沿って, 最も高い有病率となる.
  • BD の有病率は, トルコが最も高く(420/10万人), 次いでイラン, そしてイスラエル, 中国, 韓国と続く.
  • BD の有病率が最も低いのは, イギリス, ドイツ, ポルトガル, 米国であり, (0.12-6.4/10万人)である.
  • 平均的な発症年齢は30~40歳代であり, 小児や50歳以上の発症する可能性はあるが, その場合は比較的良い臨床経過をたどる傾向となる.
  • 男女変わらず発症するが, ある疫学調査では, 中東や地中海沿岸諸国では男性が多く, 日本や韓国では女性が有意に多いことが示されている.
  • 男性のBDは, より重篤な臨床経過をたどる傾向があり, 特に血管病変を伴うようなケースとなることが多い.

【Pathogenesis】

現在のBDの理解としては, 遺伝的素因を持つ個人が, 感染症やその他の環境因子により誘発されることで, 自己免疫の過程を経て発症するとされている.
Genetics
  • BD の遺伝様式は十分に理解されていないが, 家族性集積の研究により, 遺伝的要素が強いことが示唆されている.
  • first-degree relative第一度近親者にBD患者がいる場合, 発症のリスクが高く, 31%の患者がBDの家族歴を有する報告がある.
  • BDの親を持つ子供では, 臨床症状が早く現れる傾向がある. これは, 連続した世代を通じてヌクレオチド反復配列が進行性に増加することによるもので, genetic anticipation表現促進として知られている.
  • BDとの遺伝的関連に関しての最初の報告は日本人の集団におけるヒト白血球抗原(HLA)である,
    • HLA-B51はHLA-B5からの分割産物であり, HLA-B51の過剰発現は, 複数の研究においてBDの発症と関連付けられている.
    • HLA-B51 の存在はBD 患者の約 20%にしか見られず, BD の発症には他の遺伝的要因の関与が示されている.
    • あるシステマティック・レビューではBD と関連すると記述されている多型を持つ幅広い遺伝子について議論されており, その多くは免疫制御や炎症に関与するタンパク質をコードしている(下記の図).
  • HLAおよびHLA関連遺伝子は, 多くの自己免疫疾患に対する感受性と関連している.
    • その中でも, HLA-B51 は統合オッズ比が 5.78 と最も強い BD の遺伝的リスクファクターであり, これは日本人, 中国人, 韓国人, イタリア人, トルコ人, ドイツ人, イスラエル人, イラン人といった異なる患者集団の複数の研究において観察されている.
    • HLA-B5/B51 の人口寄与危険度は, スペインと日本のコホートでは BD 関連がある推定される.
  • ある解析ではERAP1 の 1 つの変異型が HLA-B51 タンパクとの相互作用によって BD 感受性を与えると考えられており, 機能的研究では活動性 BD 患者の ERAP1 の発現は健常対照者に比べ低いことが示されている.
  • MICA のいくつかの対立遺伝子は, 合併症の重症度が低いことと関連があり, 眼病変や虹彩毛様体炎とは負の相関がある.
  • ゲノムワイド関連研究(GWAS)を用いて BD と関連するSNP (small nucleotide peptides:)を特定することで, IL ファミリー遺伝子(IL-10, IL-12, IL-23R, IL12RB2 など)がBD 感受性への影響することが示唆されている.
  • また, 炎症と自然免疫に関与する地中海熱(Mediterranean fever: MEFV)タンパク質の多型もBDの危険因子として同定されている.
    • MEFV は, 南ヨーロッパで 52.2%, 北ヨーロッパで 31.7%, 東アジアで 44.4%, 中東/北アフリカで 49.9%見られる家族性地中海熱FMFと関連している.
  • HLA-B51 は好中球活性化に関与すると考えられているが, それ単独では BD に見られる一連の所見を説明するには十分でははない.
  • HLA-A26 は, BD の感受性の増加, 韓国人 BD 患者における後部ぶどう膜炎の高い有病率, 日本人 BD 関連ぶどう膜炎患者の視力の予後不良と関連している
  • その他のBDに関連する遺伝子
    • HLA 関連遺伝子としては, 小胞体アミノペプチダーゼ 1( endoplasmic reticulum aminopeptidase 1:  ERAP1)があり, トルコ, 中国, スペインのコホートで BD のリスクをもたらすことがわかっている.
    • HLA 遺伝子, 主要組織適合性複合体クラス I 鎖関連遺伝子 A(MICA)は免疫活性化に強く関連し, 中東や地中海沿岸の高い罹患率の集団でみられる.
    • T ヘルパー細胞や NK 細胞の制御と分化に関与する転写因子である STAT4やnuclear receptor coactivator-5 (NCOA5), and forkhead box P3 (FOXP3) などがある.
    • 乾癬および乾癬性関節炎の危険因子として同定されたPsoriasis susceptibility 1 candidate 1(PSORS1C1)遺伝子は, 他のリウマチ性疾患である強皮症, クローン病, BDなど, 自己免疫の要素を持つと共通の関連を持っていることがわかっている.
  • GWASの利用により, BDに関連する遺伝子の多型に関する知見は広がっている. しかし, BDの病因は複雑で多因子性であることは事実である.
  • 遺伝子との関連については患者コホートや民族によって異なるという矛盾した報告もあり, これらの関係をさらに解明する必要性がある.
  • さらに, ある特定の遺伝子多型は, BD 患者の臨床的予後に何らかの影響を及ぼすと考えられている.
Immunologic Mechanisms
  • BDの発症には免疫活性化と炎症性サイトカインの発現亢進が大きく関与している.
  • BD に関与する主要なリンパ球は T リンパ球であり, γδT cells, cytotoxic T cells, Th1 cells, regulatory T (Treg) cells, and Th17 cellsの亜集団などで構成される.
    • 粘膜免疫では, γδT cellsが最初の防御線として働く.
    • 元々, γδT cells自体は, 炎症部位でのγδT cellsの活性化や集積が認められることから, BDの免疫機構に関与する主要なTリンパ球であると考えられていた
    • しかし, NK Tリンパ球, Th1リンパ球, そして最近ではTh17リンパ球の活性化が増加していることも示唆されている
  • BD 患者の末梢血, 口腔・性器潰瘍, 消化管病変では, 活性化した NK 細胞の数やTh1 サイトカイン (IL-1, IL-6, IL-8, IL-12, TNF, IFN-γ) 産生の増加が報告されている
  • 現在のデータでは, Th17細胞の活性化およびIL-17の産生がBDの疾患活動性に関連している,
    • またIL-17, IL-23, IFNγの血清レベルの上昇が観察されている,
    • IL-17 の血清レベルは, active uveitis活動性のぶどう膜炎, oral ulcers口腔内潰瘍, genital ulcers生殖器潰瘍, およびarticular symptoms関節症状を有する患者で高くなっている.
  • Endothelial factors内皮因子もまたBD の病態に関与することが知られている,
    • BD 患者において, 血清中のプロスタサイクリン濃度の低下, 血清・滑液・房水中の一酸化窒素濃度の上昇は, 内皮機能障害があることを示している.
    • 血管内腔の integrity整合性を維持する内皮細胞は, BDの主な標的の一つであり, その活性化は血管の炎症と血栓症を引き起こす.
  • BD に関与すると考えられているその他の免疫学的因子には, 熱ショックタンパク質(heat shock proteins: HSP), 好中球やマクロファージの活性の変化がある.
    • HPS
      • BD患者において自然免疫反応と適応免疫反応の両方を引き起こす可能性がある.
      • 内因性抗原として認識される抗原ペプチドを抗原提示細胞(antigen presenting cells: APC)に輸送し, 自然免疫反応の活性化とTh1刺激を引き起す.
      • T細胞による血管内皮増殖因子の発現を増加させ, 内皮細胞障害や血管炎の一因となるかもしれない.
    • 好中球
      • BD 患者の好中球では, ファゴサイトーシス, スーパーオキシド産生, chemotaxis走化性, およびリソソーム酵素の産生が増加していることが分かっている.
      • 異常な好中球の活性化は, Th1反応を刺激するAPCによって刺激され, また一方でTh17細胞は好中球の炎症反応のアップレギュレーションに寄与する.
      • IFN-γ, TNF, IL-8などの炎症性サイトカインの濃度上昇は, BDで好中球のプライミング(機能亢進)の一因となる.
      • 好中球の活性が亢進すると, 好中球性血管反応という形で, アフタ,  pustular cutaneous lesions膿疱性皮膚病変, 結節性紅斑様病変などの組織傷害が引き起こされる.
      • それゆえ, BDの皮膚病変や動静脈病変内では, 組織学的に好中球の浸潤が認められる.
  • BD患者におけるTreg細胞のダウンレギュレーションは, 抗原特異的T細胞応答を抑制し, 免疫寛容に影響している可能性がある.
Infection
  • 環境因子への暴露は, BDの発症の一因となる, .
  • 細菌およびウイルス感染症は, BD の環境誘因となりうるものとして, Streptococcus sanguis および単純ヘルペスウイルス (HSV) 1 型が同定されているが, 一貫した特定の菌が分離されたわけではない
  • 溶連菌感染症の関与が指摘されており, BD 患者のoral flora口腔内細菌叢における溶連菌濃度の高さ, 扁桃炎や虫歯などの感染症の発生率の高さ, 粘膜皮膚症状や関節炎に対する抗生物質の治療効果などの観察に基づくものである.
  • 大腸菌, 黄色ブドウ球菌, Mycoplasma fermentans, Helicobacter pyloriなどの他の細菌も, リンパ球の活性化を介してトリガーとなりうることが分かっている.
  • HSV-1 は, 健常者と比較して, BD 患者では唾液, 腸管潰瘍, 性器潰瘍でポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により検出されている.
    • さらに, マウスにHSVを接種することで作製したBD様マウスモデルでは, 皮膚や消化管の病変内にHSVのDNA配列が証明された.
  • 感染症が特定の病因としてどのような役割を果たすかについては明確ではないが, 感染が異常な免疫学的活性化および機能異常の誘因となるという仮説もある.

【Clinical Features】

Mucocutaneous Manifestations
  • BD はもともと, 再発性の口腔内潰瘍, 性器潰瘍, ぶどう膜炎を含む古典的な三徴候を伴う, 主に皮膚科の疾患とみなされていた.
  • 口腔内アフタ
    • BD の口腔内アフタは, 初発症状として頻度が多く, BD の主要な判定基準として考えられている(下図).

 

    • アフタは口唇, 頬粘膜, 舌, 軟口蓋に好発し, 3~10個以上の病変を形成するが, 個々の病変を形成することもある.
    • また, 紅斑性丘疹, 小水疱または膿疱として始まり, 急速に進行して, 境界が圧延し, 周囲に紅斑を伴う灰色から黄色の偽膜性の壊死性基部をもつ浅い潰瘍となる.
    • これらは数週間かけて顕著な瘢痕を残すことなく自然治癒するが, 痛みを伴うため, 飲食, 会話および口腔衛生に支障をきたすことがしばしば見受けられる.
    • 見た目はアフタ性潰瘍と同一であるが, 口腔内潰瘍は12ヶ月間に3回以上再発しなければ, BDの診断基準を満たさない.
  • 性器潰瘍
    • BD の性器潰瘍は, 口腔内病変と外観が似ているが, より深く, 瘢痕化しやすい.
    • 男性では陰嚢や陰茎,女性では外陰部や膣粘膜に好発し,激しい痛み,性交疼痛症,狭窄,瘻孔を来す.
    • HSV の感染は,  BD のマイナーな診断基準として考慮される前に, ウイルス培養または PCR によって除外する必要がある.
  • 性器外アフタ
    • BD 患者の最大 6%に認められる.
    • これらは, 臀部や肛門性器に最も多くみられるが, 大腿部, 体幹, 腋窩, 乳房にも生じることがある.
    • これらの病変は疼痛を伴っており, 通常は治癒過程で瘢痕を残す.
  • BD のその他の皮膚症状には, cutaneous pathergy lesions, 結節性紅斑様病変, Sweet 症候群様病変, 壊疽性膿皮症様病変, 丘疹・膿疱性病変, 表在性血栓性静脈炎などがある.

 

  • pathergy reactionとは, 皮膚外傷に対する過敏性反応のことをいい, 外傷部位に,24〜48時間以内に周囲の紅斑を伴う丘疹または膿疱が生じる(針反応).
    • 前腕部に20〜25ゲージの針で皮膚5mmを斜めに穿刺し,pathergy test は, 24〜48時間後の反応(2mmを超える丘疹)を評価することで行う.
    • BD における pathergy 検査の感度は約 60%, 特異度は 87%であるが, 最近の研究では感度が低いことが示されています.
    • BD の国際基準のスコアリングシステムでは, Pathergy testingは任意である.
  • 丘疹膿疱性の病変
    • BD でよく見られる皮膚所見であり, 研究では患者の 30~96%に観察される.
    • 部位としては体幹に多く, また男性に多い.
    • 他に, 関節炎症状を伴う患者に多い.
  • 結節性紅斑様病変
    • 15%~78%の患者さんに認められ, 特に若年, また女性のBD患者に多い.
    • 結節性紅斑様病変は, 典型的には前足に生じるが, 大腿部, 臀部, 腕, 頭部, 頸部にも生じることがある.
  • BDの皮膚所見としては, Sweet症候群様病変(下図)や壊疽性膿皮症様病変, pernio様病変, 多形紅斑, Raynaud現象などの他のいわゆる好中球性皮膚疾患はさほど多くはない.
Ophthalmologic Manifestations
  • 眼病変はBD患者の40~60%に認められ, 男性および若年患者においてより高頻度である.
  • 発症から数年の間に最も多く見られるが, 一般的には主症状ではない.
  • 眼病変は, 前部および/または後部ぶどう膜炎, または両側汎ぶどう膜炎として現れる。
    • その他に頻度は低いものの, iridocyclitis虹彩毛様体炎, keratitis角膜炎, episcleritis上強膜炎, vitritis硝子体炎, etinal vein occlusion網膜静脈閉塞症, optic neuritis視神経炎もある
  • 眼病変は, BDでの重大な病的状態の原因であり, 再発性発作が白内障や緑内障を引き起こし, 失明することもある.
    • ゆえに, BD 患者の管理には密な眼科的評価とフォローアップが重要である.
Vascular Manifestations
  • Superficial thrombophlebitis表在性血栓性静脈炎および深部静脈血栓症は, BD 患者の最大 40%に認められる.
  • 表在性血栓性静脈炎は, medial tibia脛骨内側に最も多く認められ, 圧痛と発赤を伴う皮下結節が特徴である.
  • Thrombophlebitis血栓性静脈炎はerythema nodosum結節性紅斑と混同されることがあるが, 超音波検査で区別することができる.
  • BDでの血管病変は, 男性および若年者に多い.
  • 動脈病変は一般的ではないものの, 肺動脈瘤は有意に罹患率と死亡率を伴う合併症になりうる.
Articular Manifestations
  • BD の最も一般的な筋骨格系の症状は, 関節炎と関節痛で, 患者の 60%にみられる.
  • 関節炎は, 一般的には非びらん性・炎症性. 対称性または非対称性・少関節性または単関節性であるが, 中には多関節型もみられる.
  • 関節炎の最も一般的な発症部位としては, 膝・肘・手首・手である.
  • 滑液分析では, ムチンクロットの形成と非特異的な滑膜炎の炎症所見を認める.
  • 関節炎は通常, 関節の変形の誘因にはならないが, まれに慢性多関節炎が関節リウマチに類似していることがある.
  • papulopustular丘疹・膿疱性皮膚病変がある場合は, 関節病変の発生率が増加する.
Other Systemic Manifestations
  • 神経系病変
    • 中枢神経系の病変はBD 患者の 5%から 10%に認められ, 末梢神経系の病変よりも一般的である.
    • 最も一般的な症状は, brainstem脳幹またはcorticospinal tract syndromes皮質脊髄路症候群(神経ベーチェット病としても知られている), 静脈洞血栓症, 頭蓋内圧の上昇, isolated behavioral symptoms, isolated headacheなどでる.
    • 脳実質または脳幹の病変は, 予後不良とも関連がある.
  • 消化器病変
    • 口腔内アフタに類似した粘膜の炎症と潰瘍が特徴的である.
    • これらは回盲部, 結腸, 食道で最もよく起こる.
    • アフタが大きくなると, 消化管粘膜に穿孔をきたすことがある. 嚥下困難, 腹痛, 下痢, 下血などの症状が現れる.
  • BD の消化器症状や皮膚症状は, 炎症性腸疾患と大きく重なるため炎症性腸疾患との鑑別が重要である.
  • 肝静脈血栓症は, BDの重篤となりうる合併症であり, 肝静脈流出障害やBudd-Chiari症候群を引き起こす可能性がある.
  • 心筋梗塞, 心膜炎, 心内膜炎, 弁膜症, 冠状動脈炎などの報告はBDでは一般的ではない.

【Diagnosis】

  • BDは除外診断である.
  • BD の口腔内および性器潰瘍は幅広い鑑別であるが, complex aphthosisの他の原因が除外された場合に診断を検討すべきである.
  • complex aphthosisは, 一次性特発性と二次性に分けられる
    • Secondary complex aphthosisは, 特定のビタミン欠乏症, 炎症性腸疾患, Sweet 症候群, PFAPA症候群, または薬剤や食品の暴露 によるものと関連がある.
  • その他にBD 潰瘍病変のmimickerとしてHSV 感染症, 反応性関節炎, 梅毒, 免疫水疱性疾患, MAGIC 症候群(軟骨に炎症を伴う口腔・性器潰瘍)などがある.
  • 診断基準では必須ではないが, BD のワークアップでは, これらの他の疾患を除外するための必要な血清学的検査と画像検査を行うべきである.
Diagnostic Criteria
  • 現在のところ, 疾患に特徴的な検査所見が存在しないため, 臨床基準に頼らざるを得ない.
  • 1990 年にBD の国際研究グループ(ISG)は, 臨床医の指針となるような診断基準を作成した
  • 2006年には, ベーチェット病の国際基準(ICBD)が改訂され, 血管病変が追加された.
    • ICBDの最新版(19th)では, 他の臨床的説明がない場合, 1つの大基準と2つの小基準を必要としている.
    • 大基準は12ヶ月間に3回以上のrecurrent oral ulceration口腔内潰瘍の再発で, 小基準は性器潰瘍の再発, 眼病変, 皮膚病変,pathergy test陽性である.

    • ICBDでは, oral aphthosis口腔内アフタ, genital aphthosis性器アフタ, ocular lesions眼病変の有無でそれぞれ2点, その他の皮膚病変, 神経症状, 血管症状の有無にそれぞれ1点のスコアリングシステムとなっており, 合計点が4点以上であれば, BDの診断に支持することになる(感度は94%, 特異度は92%).
    • pathergy testingは必須ではないが, 実施し陽性であれば, 1点の加算となる
    • O’Duffy-Goldstein のCriteriaでは, 口腔アフタに加えて, 下記の少なくとも2つの存在が必要である.
      • genital aphthae, synovitis, posterior uveitis, cutaneous pustular vasculitis, and meningoencephalitis.
      • また, 2つ以上の所見があり, 1つは再発性の口腔アフタである場合は, 不完全型のBD見なされる.
  • ICBD 基準にacneiform lesionsざ瘡様病変を含めることは慎重に検討されるべきであり, 理由としては青年および成人の両方に観察される一般的な非特異的所見であるためである.
  • acne vulgaris尋常性ざ瘡やrosacea酒さを除外するために, ざ瘡状病変の血管系組織の病理所見は重要である.
  • ICBD 基準に加え, O’Duffy-Goldstein のクライテリアを適用し, 炎症性腸疾患や腸炎を有する患者を除外することが推奨される.
Histopathology
  • 口腔および性器潰瘍の病理所見では, 潰瘍と肉芽組織を特徴とし, リンパ球, 組織球, 好中球, ときおり血管内の血栓からなる混合炎症性浸潤を認める. これはcomplex aphthosisと同様の所見である.
  • 直接免疫蛍光法では, IgM, IgG, C3, フィブリンの沈着が認められ,  immune complex vasculitisと一致する.
  • HSV, 抗酸菌, 真菌の染色は陰性である.
  • BD の丘疹・膿疱性病変では好中球・リンパ球・および組織球のびまん性皮膚浸潤を示し, 皮膚小血管炎の所見を伴うことがある.
    • 小血管炎は, 皮膚毛細血管壁を取り囲む好中球浸潤, karyorrhexis核破裂, 赤血球の滲出を特徴とし, フィブリノイド壊死を伴う場合もあれば, 伴わない場合もある.
  • 顕著な好中球の浸潤は, 皮膚pathergy reactionと同様に, ほとんどすべての初期病変で認められる.
  • 表皮の潰瘍形成または膿疱形成は病変のステージで様々である.
  • 滑膜生検の病理では, 時折形質細胞やリンパ球を伴う好中球性反応を認める
  • 滑液内の白血球数は300~36,200個/mm3で, 好中球優位, グルコースは正常である.

【Treatment】

  • BD 患者の初期評価とマネジメントには集学的なアプローチが必要である.
  • 皮膚病変だけではなく, 潜在的な眼・神経・消化器・泌尿器および呼吸器病変に対して, 他の専門科の関与が必要がある.
  • BD の治療は, 関与する臓器病変, 病変の重症度, 再発の頻度, 罹病期間, 発症時の年齢, および性別によって異なる.
  • BDは慢性的な経過の疾患であるため, 治療の目的は再発の抑制または予防, 不可逆的な臓器障害の防止, およびQOLの改善である.
  • 免疫調節剤と免疫抑制剤が治療のメインとなるが, BDの治療の指針となる大規模なRCTは一般的に十分でない.
Mucocutaneous Disease
  • ステロイド・免疫調整/抑制の外用薬
    • 局所または軽度の粘膜皮膚疾患の治療には, 副腎皮質ステロイドと免疫調節剤の外用薬が最もよく使われる.
    • 副腎皮質ステロイドの外用薬は, 口腔内潰瘍や性器潰瘍の痛みと期間を軽減する効果があることが示されている.
    • 外用のカルシニューリン阻害剤であるPimecrolimusピメクロリムスは, 性器潰瘍の治療のために単独あるいはコルヒチンとの併用での研究がなされている,
    • ある研究で, 外用ピメクロリムスは潰瘍の期間を短縮するのに有効であったが, 一方で別の研究では, 痛みの程度は減少させたものの, 期間は有意に短縮しなかった.
  • その他の外用薬
    • 外用ステロイドや免疫調節剤と併用でより有効
    • benzydamine塩酸ベンジダミンなどの抗炎症洗浄剤および局所プロスタグランジンE2ゲルは, 痛みを減少させる効果があり, また局所プロスタグランジンE2はある研究では新しいアフタ症の形成を防ぐのに役立つ.
    • 抗菌剤およびantiseptic agents消毒薬は, 抗菌負荷の軽減に役立ち, ある薬剤は抗炎症作用によりさらに効果をもたらす.
    • 下記の薬剤は口腔アフタ症の痛みを軽減するのに有用であることが示されている.
    • Listerine® mouth rinse, chlorhexidine gel, triclosan rinse, tetracycline mouthwash, and minocycline mouthwash
    • スクラルファート外用剤は, 保護バリアの形成, 疼痛の軽減, および罹病期間の短縮に有効である.
    • lidocaine 2% to 5%, mepivacaine 1.5%, tetracaine 0.5% to 1% gel, and silver nitrateなどの局所麻酔薬も痛みを軽減するために使用される.
  • 局所治療に使用される他の治療法としてCO 2 and Nd:YAG lasersがある.
  • コルヒチン(0.6~2.4mg/日)
    • 経口投与によって, 口腔および性器アフタ症の大きさと頻度を減少させることができる.
  • Dapsone(50~150mg/日)
    • 単独またはコルヒチンとの併用で口腔・性器潰瘍の代替治療となる
  • Apremilastアプレミラスト
    • 乾癬および乾癬性関節炎の治療に使用される経口ホスホジエステラーゼ-4阻害剤であるApremilastアプレミラストは, 活動性の粘膜皮膚病変があるが, 主要臓器病変がないBD患者において, 無作為プラセボ対照試験で研究されている.
    • この試験では, 投与12週目に口腔内潰瘍の数およびそれに伴う疼痛が有意に減少した.
    • プラセボ群と比較して, apremilast投与患者では, 潰瘍のないcomplete response, または潰瘍の数が50%以上減少したpartial responseがより多く認められた.
    • また, apremilast投与群では全体的な疾患活動性とQOLも改善した.
    • apremilastの最も一般的な副作用は消化器症状であり, 乾癬および乾癬性関節炎の試験で示されたものと同様であった.
    • 2019年, アプレミラスト30mg1日2回投与が, BDの治療薬としてFDAから承認された.
    • 上記の局所治療または保存的治療が失敗した重度の粘膜皮膚疾患患者では, 他の免疫抑制剤あるいは免疫調節剤が使われる.
  • 副腎皮質ステロイドの全身投与/免疫抑制剤の併用
    • 全身投与は, 炎症を抑えるために, 急性の発作によく使われる.
    • しかし, 副腎皮質ステロイドは再発予防に有効ではなく, また副作用があるため, 長期には使用しない.
    • そのため, 一般的には以下の免疫抑制剤が併用される.
    • azathioprine, cyclosporine, thalidomide , or methotrexate
    • その他の薬剤として, pentoxifylline (400 mg three times daily) and low-dose isotretinoin (20 mg/day)などが使われることがある.
  • 生物学的製剤
    • BD の免疫学的メカニズムが解明されてきているため, 生物学的製剤は, 重症または難治性の粘膜皮膚疾患の治療に使用されるようになっている.
    • 抗TNF療法であるinfliximabとadalimumabは, BDの粘膜皮膚病変の治療に様々な効果を有している.
    • Etanerceptは, 皮膚病変を抑制する効果を示した唯一のTNF製剤である.
Systemic Disease
  • 全身性疾患の患者の場合, 特に未治療による罹患および死亡を防ぐために, 免疫抑制療法が必要である.
  • コルチコステロイドの全身への投与は, しばしば第一選択薬として使用されるが, 通常, azathioprine, interferon (IFN)-α, cyclosporine, cyclophosphamide, or chlorambucil.などの免疫抑制剤を併用する.
  • 眼病変
    • 眼症状に対しては, アザチオプリンがコルチコステロイドのスペアリングとしての第一選択薬されてきた.
    • 最近のエビデンスでは, 眼科疾患のある患者に対するコルチコステロイドのスペアリング療法として, 第一選択または第二選択薬として抗TNF薬のinfliximabまたはadalimumabの使用が支持されている.
    • BDの難治性ぶどう膜炎に対するinfliximabの2つの大規模非対照試験では, 患者はinfliximab治療開始後に顕著な視力改善を認めている.
  • 血管病変
    • 血管病変を有する患者では, 免疫抑制療法が治療のメインであるが, 血管病変のコントロール不良であると罹患率と死亡率が高くなるため, 積極的な治療が推奨される.
  • 神経病変
    • BDの神経症状は, 通常, コルチコステロイドとの併用として, azathioprine, mycophenolate mofetil, methotrexate, and cyclophosphamideといった免疫抑制剤が使用される.
    • しかし, 第一選択薬が無効であったり, 忍容性が低い場合には, 代替治療として抗TNF製剤やIFN-αが使用されることがある.
    • また, tocilizumab, anakinra, canakinumabなどの他の生物学的製剤が神経性BDの症状を効果的に改善したという報告もある.
  • 消化器病変
    • 抗TNF製剤が最も有効のようで, 特にadalimumabが良好な結果を示している.

【Prognosis】

  • BD は多彩な経過をとり, 再発と寛解を繰り返すのが特徴的である.
  • 診断は困難であり, 粘膜皮膚病変の初発症状が起こった後に遅れて診断となることがある.
  • 罹患率と身体障害の主な原因は, 眼病変と神経疾患である.
  • 全体的には, 予後はここ数十年で改善されてきており, これはより積極的な治療によるものである.
  • 死亡率は, 研究コホートによって異なる.
    • 高い死亡率(最高9.8%)がトルコで報告されており, 血管合併症/大血管障害による突然死(44%), 中枢神経系病変(12%)に関連している.
  • 病態生理の理解が深まるにつれ, 新しい免疫調節剤が BD の治療に試みられている.
  • これらの薬剤の有効性については相矛盾する証拠があり, ほとんどの研究は患者数や罹患率が少ないというlimitationがある
  • より大規模な対照臨床試験が行われることで, 治療アルゴリズムの決定や新しい治療薬の扉が開く可能性がある.