Rhuematology

【Kelley】サルコイドーシスのまとめ

Kelleys Textbook of Rheumatologyより

サルコイドーシスの診断までのまとめ

【KEY POINTS】
  • Sarcoidosisサルコイドーシスはheterogeneous不均一な多臓器炎症性疾患であり、あらゆる臓器にnoncaseating granulomata非粘液性肉芽腫の発生・蓄積を引き起こす
  • サルコイドーシスは世界中で発症し、あらゆる人種・民族が罹患するが、アフリカ系アメリカ人の患者では有病率と重症度が増加する
  • サルコイドーシスの病因は、susceptible host 感受性宿主において、様々な免疫細胞および間質細胞、サイトカイン、およびその他の炎症性メディエーターの相互作用に関与する
  • リウマチ性症状がよく見られるが、見落とされたり誤診されることがよくある
  • sarcoid arthritisサルコイド関節炎を含む肺外症状に対して、米国食品医薬品局(FDA)が承認した治療法はない
  • 現在の治療法としては、第一選択としてglucocorticoidsによる治療、第二選択としてmethotrexateなどのDMARDs、第三選択としてTNF inhibitorsがあるが、重症度や臓器がどのように関与しているかによって使われている

【Introduction】

  • サルコイドーシスは全身性で臨床的に不均一な稀少疾患である
  • 原因はまだ特定されていないが、環境・遺伝・感染などの関与が示唆されている
  • サルコイドーシスのhallmark特徴は非粘液性肉芽腫の発生・蓄積である。
  • 臓器の関与は患者間で予測できず、様々であるが、サルコイドーシスのmorbidity 罹患率やmortality死亡率を決める主な因子である
  • 臓器の中でも90%以上の症例で肺病変を認め、その他リンパ系、皮膚および眼病変も多い
  • サルコイドーシスの診断が難しい理由としては、症状が様々であり患者は無症状かあるいは一連の非特異的な症状を呈するため
    • 場合によっては、咳、呼吸困難、眼の灼熱感、発疹などの特異的な症状から診断がつくこともある
    • 肺外症状がある場合は、関節炎、皮膚病変、神経障害といったリウマチ性の症状を引き起こすことがある
  • リウマチ専門医はサルコイドーシスの患者によく直面する
    • プレゼンテーションが非典型の場合・多臓器障害の場合・可能性としての鑑別診断の除外を必要とする場合

【Classification Criteria】

ACRやEULARにはサルコイドーシスの分類基準はないが、他の学会では以下の基準を満たす場合にサルコイドーシスの診断を推奨している
 (1) a compatible clinical picture 類似の臨床像
 (2) histologic demonstration of noncaseating granulomas 組織学的な非粘液性肉芽腫の証明
 (3) exclusion of other diseases capable of producing a similar clinical picture 類似の臨床像を呈するその他の疾患の除外

 

【Epidemiology】

  • サルコイドーシスは臨床的にheterogeneityであり、国によって診断基準が異なるため、worldwideな有病率や発症率を算出することは困難である
  • 日本でのサルコイドーシスの発症率は10万人あたり3.7人との推定がある
  • 発症年齢の中央値は約40歳
  • AfricanAmericansアフリカ系アメリカ人では疾患経過はより進行性で死亡率も高い
  • 性差としては57% が女性で多い
    • 女性のサルコイドーシスは眼および神経学的症状がより多く認められる
    • 女性では65 歳前後に発症の第二のピークがある

【Etiology】

  • サルコイドーシスの正確な原因はまだ分かっていないが、サルコイドーシスが不均一で多様な症状を来す疾患であるのは、複数の原因物質が関与している可能性がある
  • サルコイドーシスの根底にある免疫原性メカニズムを考慮したとき、トリガーとしてはT細胞抗原が考えられ、肉芽腫形成につながるイベントのカスケードを刺激しているのかもしれない
  • サルコイドーシスの90%以上が肺障害に関与しているのは、環境因子(感染性物質の肺経由)が原因かもしれない
    • 抗原性をもつ無機・有機の環境因子が発症に関与しているとされている
    • lumber industry 製材業やburning wood木材を燃やすような農業の生活様式の研究では肺サルコイドーシスには関与するがsystemic sarcoidosis全身性サルコイドーシスには関連しない(ACCESS試験)
      • ACCESS試験の別の解析では環境因子としてradiation, insecticides 殺虫剤, mildewカビが全身性サルコイドーシスの表現系と関与していた
    • サルコイドーシスとの臨床的組織学的な類似性がある因子として、Mycobacterium tuberculosisPropionibacterium acnesアクネ菌に焦点を当てた研究が多い
      • Mycobacterium tuberculosis結核菌の研究
        • サルコイドーシス患者の組織サンプルの40%に結核菌のカタラーゼ・ペルオキシダーゼ蛋白(mKatG)が検出
        • Recombinant mKatGを用いてサルコイドーシス患者の mKatG 抗体を測定すると調査した患者の 50%に認められた
        • ESAT-6 のような追加のマイコバクテリア抗原への免疫反応が起こる
      • Propionibacterium acnesアクネ菌の研究
        • サルコイドーシス患者の肉芽腫でよく発見されているが、特異性は高くない
  • 肉芽腫にはserum amyloid A (SAA)血清アミロイドAが蓄積しており、これは、感染因子を殺すのに必要な過剰免疫Th1細胞の免疫応答の結果だろう
    • SAAの血中濃度は病期と相関があり、biomarkerや治療標的になる可能性もある
    • このメカニズムはサルコイドーシス患者のongoingな慢性肉芽腫性炎症の説明になるかもしれない

【Pathogenesis】

肉芽腫形成はサルコイドーシスの特徴であり、根底にある免疫学的なイベントは以下の通り
(1) exposure to one or more (unknown) antigens 抗原への曝露
(2) activation of antigen-presenting cells (macrophages and dendritic cells) 抗原提示細胞の活性化
(3) a T cell response in an effort to eliminate the antigen 抗原を排除しようとするT細胞の免疫応答
(4) granuloma formation 肉芽腫の形成

 

生理的には、肉芽腫は病原体から組織を守るシールドとしての役割を果たし、それによって炎症反応を先取りをしている
肉芽腫の病理像としては
  • epithelioid cells, multinucleated giant cells, and macrophages,
  • その周囲をB cells, CD4 + T cells, and CD8 + T cellsなどのlymphocytesが覆っている
肉芽腫の形成について
  1. 抗原暴露後に、マクロファージはToll-like receptors(TLRs)などのパターン認識受容体を介して、抗原を検出、internalize内在化、そして処理する(サルコイドーシスではTLR2とTLR4が関与)
  2. HLAを介してT cell receptorに抗原提示し、その際にCD80, CD83, and CD86などの共刺激分子が必要
  3. これらの抑制性シグナルの1つはthe butyrophilin-like 2 (BTNL2)遺伝子によって媒介されている可能性がある
  4. 局在的に活性化されたナイーブCD4 + Th細胞は活性化CD4 + Th1様細胞に分化する
  5. その分化により、IL-2, IFN-α, IFN-γ, monocyte chemotactic protein-1, macrophage inflammatory protein-1, and granulocyte-macrophage colony-stimulating factorなどのTh1関連炎症性メディエーターが増加する
  6. CD4 + Th細胞は、抗原提示細胞と相互作用して、肉芽腫の形成を初め、肉芽腫を維持するようになる
  7. このように、T細胞は、免疫系活性領域でオリゴクローナルな増殖を行う
(補足)
  • 疾患過程のこの段階ではリンパ球濃度は炎症部位で通常増加するが、sequestration封じ込めの結果として、末梢血リンパ球減少が起こることもある
  • CD4/CD8細胞の比率の上昇が肺やその他の臓器でおこる
  • エフェクター期には、T細胞とマクロファージがメディエーター(IIL-12, IL-15, IL-18, and TNF)を放出し、Th1主導の炎症反応を増幅させる
  1. マクロファージ由来のサイトカインはCD4 + cells から Th1 cells へと分化を促進する外部シグナル環境に寄与している
  2. 最終的に、マクロファージは上皮細胞へと分化し、分泌能を獲得し、貪食能を失い、融合して多核巨細胞となる
  3. このマクロファージから分化した上皮細胞やTh2 cellsは細胞基盤を形成する
  4. これらの細胞は、fibronectin and C-C motif ligand 18 (CCL18)を合成するが、もし肉芽腫が消失する過程で、これらのメディエーターが放出されると、CCL18活性化とマクロファージを介したコラーゲン形成の正のフィードバックループが生じることになる
  • 肉芽腫はほとんどのケースでダメージを引き起こすことなく、自然に消失するが、このフィードバックループによってサルコイドーシス患者の最大25%において線維化を引き起こす
  • サルコイドーシスで死亡する患者は5%未満であるが、線維化が進行してしまうと予後が悪化し、死亡要因となる

 

(補足)
  • TGF-βのupregulationのようなサイトカインの変化やTh2 cellsがCD4/CD8 cellsの比率を増加させる可能性がある
  • 近年はTregsやIL-17A を分泌するする Th17 細胞がサルコイドーシス患者において発現増加していることが報告されている
  • サルコイドーシス患者ではニコチン治療によりの TLR 応答性が改善し Treg の数が正常化する。
  • 喫煙者ではサルコイドーシス発症が低下するという逸話もある
サルコイドーシスにおいて、現在考えられる免疫学的シナリオは二つ
  • 活動性の高い患者での免疫反応が起こり、最終的に抗原を除去する
  • 炎症は強くない慢性疾患状態で誘発因子を所よできないために、免疫反応が慢性的に刺激されて肺線維化などの臓器障害が引き起こされる

【Clinical Features】

  • サルコイドーシスは、すべての臓器を障害する可能性があるが、最も多いのは肺である
  • 関節症状はサルコイドーシスでは非常に一般的(15-25%)で関節炎には急性と慢性がある(下記詳細)
    • Acute Sarcoid Arthritis急性型が最も一般的
    • Chronic Sarcoid Arthritis慢性関節炎は、一般的に多臓器サルコイドーシスと関連している
  • 眼(ぶどう膜炎および網膜血管炎)、肝臓(肝機能検査異常)、リンパ節(腫大)、皮膚(周皮狼瘡、結節、斑点、瘢痕サルコイドーシス[刺青])は、肺外の臓器の中で最も頻繁に影響を受ける
  • リウマチ専門医は、全身性・非典型的・主に筋骨格系の症状またはスタンダードな治療に抵抗性をもつ患者に直面する可能性が高い
  • その他の症状
    • sarcoidosis-associated fatigue(約50~70%)
    • small-fiber neuropathy小指神経障害(44%):診断・治療が難しい
    • cognitive dysfunction 認知機能障害
    • Musculoskeletal involvement
    • osseous sarcoidosis (axial manifestation or sacroiliitis)(最大で患者の 13%)
    • sarcoid myopathy(筋生検では最大患者の8%に肉芽腫を示す):まれ(1〜2%)
Acute Sarcoid Arthritis
  • Febrile arthropathy熱性関節症が最もよく観察され、通常は足首、膝、手首および肘におこる
  • Acute Sarcoid ArthritisはBHLおよびerythema nodosum (EN)結節性紅斑を併発することが研究で分かっており(Visser’s Criteria:感度93%、特異度99%)、他の原因による関節炎との鑑別に役立つ
Löfgren’s syndrome (LS)の足首の腫れは、真の滑膜炎というよりも関節周囲炎や腱鞘炎であることがほとんどであり、USやMRIで評価される
典型的には疼痛とこわばりがあり、関節腫脹がある。皮膚肉芽腫ができることもある
急性サルコイド関節炎は、発症後数週間で治癒することもあるが、数ヶ月間症状が続くこともあるが、一旦症状が収まれば再発しない
(身体所見・検査所見)
  • ESRの上昇をよく認めるが、発熱などの他の症状は患者の最大 66%にしか観察されない
  • 少数の急性関節サルコイド患者において、手足の X 線写真で確認できる異常な変化が骨に発生することがある
  • sarcoid dactylitis(dactylitisはサルコイドーシスの可能性が高い兆候)
    • 罹患した指周囲の軟部組織腫脹、発赤、圧痛を特徴とする
    • dystrophy爪甲剥離症などの爪異常を認めることもある
    • サルコイド関節炎の診断時にはpsoriatic arthritis乾癬性関節炎など爪に影響を与える他の疾患を除外することが重要である(通常、乾癬の皮膚症状はサルコイドーシスの皮膚症状と区別できる)
骨格系への影響
  • nasal bones鼻骨, pelvic girdle structures骨盤帯, ribs肋骨, and the skull頭蓋骨に影響を及ぼすことがある
  • lupus pernioびまん浸潤型皮膚病変の患者(下図)では鼻骨に異常が発生するリスクがある
  • 鼻骨に病変を有するサルコイドーシス患者とGPA患者との間には類似性がある。以下は鑑別に有用
    • GPA 患者でのANCA陽性、サルコイドーシス患者でのANCA陰性の血清検査が鑑別は有用である
    • サルコイドーシス患者の約60%は、ACEやsIL-2Rが高値となるが、血管炎では認めない
  • 骨盤内の病変や脊椎内の病変は、癌の骨転移が鑑別にあがるため、包括的な評価が必要
Chronic Sarcoid Arthritis
  • African-Americanアフリカ系アメリカ人に多く、全身および多臓器に病変を有することが多い。
  • 通常は小関節炎または多関節炎として発現する
Sarcoid arthritisサルコイド関節炎は様々な症状を呈する
  • Joint destruction (granulomatous erosions)  肉芽腫性びらんを伴う関節破壊
  • Jaccoud’s deformity (i.e., deformity without obvious erosive destruction) 明らかなびらん性破壊を伴わない変形
  • plain radiographs単純X線ではphalangeal cysts指骨嚢胞 or a trabecular pattern海綿状パターンを認める
    • phalangeal cysts指骨嚢胞があればほぼ間違いなくその関節炎がサルコイドーシスの症状である
  • 骨病変を伴うサルコイド関節炎の可能性
    • trabecular pattern, osteolysis, cyst formation, and punched-out lesions
  • サルコイドーシスの初期に関節症状を認める患者がいる一方で、発症数年後に発症する患者もいる
  • Lupus pernioびまん浸潤型皮膚病変 and chronic uveitis慢性ぶどう膜炎を併発する患者もいる
関節症状を認めるときに除外すべき疾患
  • reactive arthritis (ReA)やrheumatoid arthritis (RA)
    • これらはサルコイド関節炎と同様に対称性の小関節炎や多関節炎であったり、RFの上昇を認める
    • RA患者ではinterstitial lung disease (ILD)を発症する患者もいるため、鑑別に迷うこともある
    • またRA患者は最終的にサルコイドーシスを併発する患者もいるので注意が必要
  • migratory polyarthritis移動性多発性関節炎患者では、他のサルコイドーシス症状がなければrheumatic feverリウマチ熱が疑われることがある
    • その場合は肉芽腫を狙って、滑膜や腱鞘の生検が有用である

【Diagnosis and Diagnostic Tests】

サルコイドーシス関連の筋骨格系疾患の診断は2つに分けて検討する
  • 既知のサルコイドーシス患者に筋骨格系症状がある場合:通常は同じ部位にサルコイドーシスが存在する
  • サルコイドーシス疑い段階での筋骨格系を症状がある場合:生検が必要(肺や皮膚、筋肉やリンパ節など)
除外診断
  • よく臨床現場では、臨床症状のみを考慮した場合は、ホジキンリンパ腫や肺結核、全身性疾患といった他の疾患が書記官別に上がる
  • ゆえにワークアップの主な目的は、サルコイドーシスの臨床的手がかり及び特徴を集め、他の鑑別疾患を除外して治療の方向性を間違わないようにすること
下記は除外する必要のある鑑別診断の概要図
下記は肉芽腫を形成する可能性のある鑑別診断リスト
通常生検の必要の無い疾患
  • Löfgren’s syndrome (LS)(多発関節炎,結節性紅斑,両側肺門リンパ節腫脹を 3 徴とする サルコイドーシスで20例弱と稀)
  • Heerfordt’s syndrome(発熱、ぶどう膜炎、耳下腺炎、脳神経麻痺と定義されている)
  • ぶどう膜炎を伴う BHL
  • 無症状 BHL
診断の遅れや誤診について
  • 疾患がheterogeneityであるため、診断が遅れることがある
  • 専門医以外に紹介されることも多い
  • 肺症状が喘息と誤診されることもよくある
  • 筋骨格系の症状がある場合は他の自己免疫疾患と類似していることもある
  • サルコイドーシス患者 189 名を対象としたある研究で、初診時に診断を受けた患者はわずか 15.3%
  • リウマチ診療で行われている包括的な評価が有益である(下図)
サルコイドーシス疑う他の症状
  • Erythema nodosum(EN)
  • lupus pernio
  • seventh cranial nerve paralysis 顔面神経麻痺
  • hypercalcemia 高カルシウム血症
有用とされている検査
  • 血清 ACE 値については上昇しないこともある
  • 下記の検査については未だ議論の余地がある
    • chitotrisodase
    • sIL-2R:18F-FDG-PETと相関はあるが、サルコイドーシス単独の研究ではない
    • neopterin:18F-FDG-PETと相関はあるが、サルコイドーシス単独の研究ではない
    • lysozyme
    • KL-6
    • amyloid A
  • サルコイド関節炎に対する十分な感度特異度の検査はないため、定期的な関節・炎症マーカー評価が必要
  • ガドリニウム MRIは脳や心臓のサルコイドーシス病変の特定に役立つ
  • MRIは骨サルコイドーシスまたはサルコイド関節炎、無症状病変の同定にも有用
  • 18F-FDG-PETは最初の診断手段として推奨されない
  •  肺病変が認められない場合に、どの臓器が障害されているか調べるときに使う
    • 明らかな臓器病変がない場合、生検を行うべき適切な臓器を示唆することもできる
  • 気管支超音波検査は適切な生検部位を選択するのに役立つ