Journal Club 雑記

【レビュー】肉芽腫性肝炎:レトロスペクティブコホート

Granulomatous hepatitis: a retrospective review of 88 cases at the Mayo Clinic. Mayo Clin Proc. 1991 Sep;66(9):914-8.

【CONCLUSION】

  • “granulomatous hepatitis” (GH) 肉芽腫性肝炎はまだ十分には理解されていない疾患である
  • この報告は1976年9月から1985年10月の間にメイヨークリニックで診断された88人のGH患者の初期症状および最終的な診断に焦点を当てたものである
  • 原因は様々であるが、88人中44人は特発性GHであった

【INTRODUCTION】

  • 肝生検標本に認められる肉芽腫の所見は、以前に診断された全身性疾患とよく相関する
  • しかしながら、しばしば肝肉芽腫は潜行性の全身性疾患を反映しているか、あるいは検出可能な基礎疾患を伴わないことと関連があるかもしれない
  • 原因が明らかでない場合、これらの肉芽腫が発現するときは、よく発熱、倦怠感、食欲不振などの非特異的症状、または無症状の肝機能異常を認める。この症候群は”granulomatous hepatitis” (GH) 肉芽腫性肝炎と呼ばれ、医師は治療可能な疾患を厳格に検索する必要がある
  • これまでの報告では、病因の多様性が強調されており、結核は全症例の10〜53%、サルコイドーシスは12〜55%であった
    • これらの研究では、広範囲に検査を行っても原疾患が見つからない症例である“idiopathic”は5〜36%であることが記述されている
    • これらの報告の違いは、発表されたデータの種類や患者集団の特徴などのいくつかの要因によって決まる
  • 他の研究では、剖検報告書や生検標本に基づいた結果であり、所見は偶発的であり、臨床的な症候群を反映していない
  • これらの研究では実験室技術、特に微生物学的手法が現在ほど洗練されておらず、実際、結核など特定の疾患の発生率が今日とは異なっていた時代に行われたものがある
  • また、これらの報告に登場する患者の出身地も、特定の病気の発生頻度に影響を及ぼしている
  • これまでの研究では上記のバイアスがあるため、Mayo Clinicに紹介された患者の相当数を調査した今回の研究は解明的なものになるだろう
    • 著者らは9年間の間に臨床的にGHとして診断された88症例をレトロスペクティブにレビューした
    • 肝生検標本で肝肉芽腫が偶然発見された症例や、評価されなかった症例は除外している
    • また剖検材料も除外した
    • この研究では、やっかいな症状や肝酵素異常のために様々な検査を受け、評価された患者にフォーカスを当てている

【MATERIAL AND METHODS】

  • Mayo Clinicのカルテをレビューすることにより、1976年9月から1985年10月までの9年間に示された臨床診断がGHであった98人の患者を特定した
    • この98人のうち、88人が研究対象者の基準を満たした。
    • 必要な条件は、Mayoですべての評価を行うこと 生検材料を当院の検査医学科・病理科で検討することであった
検査
  • 標準的なラボとして血球検査、生化学検査、胸部レントゲン、赤血球沈降速度、ツベルクリン皮膚テストが含まれていた
  • ほとんどの患者で行われた微生物学的検査は、マイコバクテリア,真菌,ブルセラ菌,梅毒の培養または血清検査が施行されていた
  • 培養検体は肝臓のほか、血液、喀痰、胃洗浄液から採取された
  • その他にもQQ fever, cytomegalovirus, Epstein-Barr virus, antinuclear antibody, rheumatoid factor, angiotensin converting enzyme, and antimitochondrial antibodyの血清検査が一部の患者に施行された
  • 88人のうち83人(94%)は当院に紹介された患者であり,当院での検査前に広範囲に評価されていたが、我々は,同定可能な原因を除外するために独自の検査値および他の研究に依存した
  • 75%以上の症例は、当院で肝生検または開腹術を施行した
  • その他の症例では最近他の場所で入手した生検材料を使用し、当院の検査医学科・病理科で検討した
肉芽腫の定義
  • Tリンパ球の縁に囲まれた組織球または変性マクロファージの小集団であり、しばしば中心部にLanghans型巨細胞を伴う
  • 病理学的には、GH は組織学的検査で多発性の非乾酪性肉芽腫の存在によって区別された
以下の場合はサルコイドーシスと診断
  • 肝外肉芽腫を認めた場合
  • サルコイドーシスの典型的な臨床的特徴を認める
    • hilar adenopathy肺門リンパ節腫脹
    • 高カルシウム血症
    • 多関節炎
    • uveitisブドウ膜炎
その他
  • 原発性胆汁性肝硬変は、肝酵素の増加、抗ミトコンドリア抗体の存在、肝肉芽腫によって特徴づけられた
  • “Idiopathic” GH は、肉芽腫が肝臓に限局しているかどうかで区別された
  • この所見は、肝臓の肉芽腫につながる可能性のある他の疾患がない場合に、ワークアップと培養および血清検査が陰性であったことで確認された

【RESULTS】

患者特性
  • 研究の集団は女性45名、男性43名で構成
  • 患者の平均年齢は54.2歳
  • 全体の65名は無症状であり、残りは無症状の肝酵素異常のみであった
  • 症状の平均持続期間は19.1カ月
  • 発熱は42人に、倦怠感は 29人
  • その他の顕著な症状は下図を参照
  • 平均経過観察期間は3.5ヶ月であった
  • 4名に結核感染の既往
  • 我々の施設に紹介される前に、9人の患者が抗結核薬による治療既往あり
  • 3人はマイコバクテリア病が証明
  • 6人は培養が陰性になるか改善が見られなくなるまで経験的な治療を受けていた
  • 少なくとも5人の患者は、肝肉芽腫に関連する以下の薬剤を服用していた
    • クロルプロパミド
    • キニジン
    • カルバマゼピン
    • メチルドパ
    • フェノチアジン合剤
  • 数人の患者は紹介される前に抗結核薬(イソニアジドなど)も服用していた
  • これらの薬剤はGHと関連しているが、症状の発現との時間的な関連は認められなかった
  • 臨床検査の結果、多くの異常が認められたが、特徴的な所見はほとんど認めなかった
  • 38名の患者において、赤血球沈降速度が上昇していた
いくつかの診断を受けた患者の特徴
最終的な診断名
前述のように、サルコイドーシスと診断されたのは、典型的な肺病変または多臓器肉芽腫が認められた症例、あるいはサルコイドーシスの典型的な臨床症状が認められた症例であった
  • これらの患者のうち10人は、GHの評価を受ける前にサルコイドーシスと診断されていたが、かなりの肝酵素異常を認めGHの評価の必要性が生じたため、本研究に組み入れられた
  • サルコイドーシスと診断された患者の37%で、以下の胸部レントゲン所見を認めた
    • stage1: hilar adenopathy肺門リンパ節腫脹
    • stage2: びまん性間質性変化を伴うhilar adenopathy肺門リンパ節腫脹
    • stage3: hilar adenopathyのないびまん性間質性変化
  • アンジオテンシン変換酵素の増加は、検査した 13 人の患者のうち 9 人に認めた
  • その他のサルコイドーシスの重要な特徴としては以下の通り
    • 高カルシウム血症:5人
    • 肝外肉芽腫:8人
    • GHに関連する他の診断名を以下を参照

【DISCUSSION】

  • 我々の研究では、44名(50%)が肝臓に限局した肉芽腫を有し、基礎疾患はなく、これらの患者は特発性GHであると診断された
    • Mir-Madjlessiらの報告では、GHの36%が特発性であったのに対し、Bunimらの報告では5%のみである
  • 本研究で特発性疾患の患者の割合が高いのは、いくつかの要因に関連していると思われる
    • ほぼ全員(94%)が他の病院から紹介された患者であった
    • GHの二次的な原因が見つからない患者は、紹介される可能性がより高い。
    • さらに、今回の報告は、Mayo Clinicで診察されたGH患者を対象としたレトロスペクティブな研究である
    • 標準的なプロトコールやこれらの患者の更なるフォローアップがなければ、このような研究は特発性GHの患者数を過大評価する傾向がある
    • 肝生検や剖検が可能である研究では、より多くの二次的なGHの原因が報告されるだろう
    • さらに、他の研究者は肉芽腫性肝疾患の特定の側面に焦点を当てている。
    • サルコイドーシス、乾癬、痛風の症候群を強調したBunimと共同研究者の報告したシリーズでは、サルコイドーシスが基礎原因である症例の割合が高い
  • また、地理的な要因も重要で、histoplasmosisヒストプラスマ症、brucellosisブルセラ症や他の感染症をなどの感染症の報告において、多様性を説明するのに役立っている
  • 本研究では、サルコイドーシスは19人(22%)に認められた
    • これはKlatskinら が報告した47%という高い数字や、Wagonerらが報告した12%という低い数字と比較すると、これまでの調査と一貫性はありそう
  • 実際、サルコイドーシスの既往がある10人を除くと、特発性GHの優位性はより顕著である
  • 著者らは孤立性の肝肉芽腫性疾患が明確な臨床的実体像(すなわち特発性GH)を表すのかどうか、あるいは一部の研究者が示唆するように、単に肝臓に限局したサルコイドーシスを示しているのか、ジレンマに直面している
  • 著者らは特発性GHを、広範な評価で識別可能な原因や併存疾患のない肝肉芽腫と定義している
  • 本研究では、特発性に分類された症例は全身性肉芽腫症の明確な証拠を持たず、平均3.1ヵ月の監視下の間、おおむね良性の経過をたどった
    • これらの所見は我々の仮説をさらに裏付けるものである
  • 標準的な評価に、ガリウムスキャン、一酸化炭素の拡散能検査、あるいは経気管支生検を加えることにより、サルコイドーシスの診断率が高まった可能性がある
    • しかしながら、これらの検査は、肺の症状がない場合には臨床的に施行されず、おそらく患者の管理には影響を及ぼさなかったであろう
    • その上、レトロスペクティブ研究においては、このようなプロトコルを決めることもできない
  • 血清アンジオテンシン変換酵素レベルと肺疾患活動性の相関は、他の研究者により指摘されている
  • 本研究の患者では、GHの原因として結核の有病率が3%と特に低いことがわかった
    • 他の研究者は10%から53%の範囲で報告している
    • この多様性と我々の報告における結核の低頻度は、社会経済的なステータスを含む患者集団と、我々の研究における紹介者の優勢によって部分的に説明されるかもしれない
  • さらに、結核の全体的な発生頻度は、治療とサーベイランスの改善したため、数十年にわたり減少している
  • 2つの他の診断が注目に値する
  • ヒストプラスマ症は4例で診断され、2例は培養と血清が陽性、1例は培養のみ陽性、1例は血清のみ陽性であった
  • primary biliary cirrhosis原発性胆汁性肝硬変の診断は、主に抗ミトコンドリア抗体陽性基づいている
  • まれに、原発性胆汁性肝硬変の組織学的特徴の一部または大部分が肉芽腫性であることがある
  • 今回の解析はレトロスペクティブなものであったため、すべての患者に対して一連の検査が行われたわけではなかった
    • したがって,特発性と診断された症例の中には,Q熱性肝炎やPBCなどの基礎疾患があった可能性が不特定存在する
    • しかし、その後の臨床経過はこの可能性を裏付けておらず、それ以降の進展によって、特発性GHの診断がその後に無効となった例に関しては不明である
  • 著者等の研究に基づくと、GHに対する評価は少なくとも以下を含んでいる
    • chest roentgenography 胸部レントゲン
      • ただし胸部X線写真で肺疾患が認められないときに、血清アンジオテンシン変換酵素の測定は支持できない
    • appropriate cultures for bacteria (including Brucella ブルセラ菌)
    • mycobacteria マイコバクテリア
    • fungi 真菌
    • serologies for Q fever Q熱
    • Brucella ブルセラ菌
    • syphilis 梅毒
    • hepatitis B, and hepatitis C
    • a tuberculin skin test with controls ツベルクリン皮膚テスト
    • an assay for antimitochondrial antibody 抗ミトコンドリア抗体